![]() == == == == == 「ぁ、…」 そこには手足をもがれた女性の死体があった。 暗闇でよく見えないが浴室の床はきっと真っ赤だろう。 「夢叶いたんだ…気付かなかった……」 ウタが近付いてくる。 理由はないが、いつもと様子が違うのは確かだ。 「ど、したの……その人…」 「あぁ…ちょっとそういう気分だったから…」 頬に触れたウタの指先はいつもより熱かった。 でも、対照的に発するその声は低くて冷たかった。 「ご…ごめん、機嫌悪かったんだ…私もう帰…――」 相手の都合も考えずに来たことを謝り、背を向けたとき。 首筋を大蛇が這ったようだった。 気付いた時にはウタの腕の中で、体は少しも動かない。 「――だめ……帰さない…」 耳元で聞こえた声にイトリの言葉を思い出す。 だが携帯電話の入ったバッグは部屋に置いてきてしまった。 いつもなら優しいその腕も、今は息苦しいほど締め付けてくる。 命の危機とまではいかないが、身の危険は感じる。 「ウ、タ……苦し…」 後ろのウタを見ようとするが、思うように首が回らない。 「苦しい?…痛くて逃げられない…?」 「逃げない、からっ…」 骨が軋むほどの力。 今更ながらにウタが喰種であることを身をもって知る。 「じゃあ、もっとだね…。 もっと痛くして……動けなくなったらずっと一緒だね…」 痛くて痛くて声も出ない。 どこか骨が折れているのではないか。 少なくとも、青痣が出来ることは間違いない。 「助け…て、……お兄ちゃ…」 ((私を支えてくれる人)) == == == == == == == == == == 「、…」 「先輩?どうかしましたか?」 「…いや、…誰かに呼ばれた気がした」 「?空耳じゃないですか?」 「……」 「あ、もしかして彼女さん?先輩が仕事ばかりしているから」 「そんな人はいない」 ← | → |