03
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数時間後。
漸く控室に戻って来た高槻。

出前を持ってきてくれたスタッフ曰く、時間が押したらしい。

押したと言っても、ファン交流が長引いただけなのだが。





「お待たせして申し訳ない」



何時間もファン対応したとは思えないくらい元気だ。

「いえ…出前まで頂いて…」

高槻は紙とペンを取り出すと聞く体勢は万端のようだ。

「実は次回作は"喰種"の話を書きたいなーと」
「それは……取材が出来ないんじゃないですか?」

フィクション…完全な想像で書くのだろうか。

「そこんところはCCGにでも行ってみようと思ってましてね」

納得できる。あそこの人間は喰種の専門家のようなものだ。

「でもいいんですか?次回作のネタを教えて…」




「喰種の話書いた本なんてほとんどないからいい具合に推測してくれるんじゃないかねぇ。まぁ高槻の本を読んだことのないお姉さんは漏らす気はしないがね」




最初に高槻と知っても反応が薄かったためそう判断したらしい。

彼女曰く、世間の興味を引くためにこのネタは公式で発表されるだろう、ということらしい。

「まぁ他人が挑戦していないネタだからねぇ」

取材に難儀しそうだよ、と笑う。




















「ふむふむ、では夢叶ちゃんは喰種を否定しないと」




喰種の存在はもちろん、彼らの食性も。

「彼らからしたら生きるための唯一の方法ですからね、一概には否定できませんよ」

人間だって、いや、人間の方がよっぽど多くの命を奪っている。

「でも怖いとは思います。同じ形で近くに居ると思うと…」

あまり喰種を擁護すると疑われかねない。



「恋人が実は喰種で急にパクッ――って?」



「――…えぇ」

何となく背筋に冷たいものが走った。

「もしかしたら喰種と知って一緒にいる人間もいたり〜」
「それは……難しいのでは?」

自らもそうであり、身近にもいる。

何より、喰種を匿えば重罪になるような法律もある。

今まで皆無であったわけではないのだろう。





「ん〜……難しいとなると人間と喰種の恋愛も面白そうではあるなぁ。でも読みやすさで行けば…」





どうやら考えなしで書こうとしているわけではないらしい。

「夢叶ちゃんは恋愛と戦い、どっちがいいと思うかね?」

一瞬考える。

自らの生命を脅かす存在を書く本。

「……戦いものの方が読者は受け入れるんじゃないですか?」

現に、CCGが喰種と戦っている。

「そうなんだが、人間と喰種の恋ってのも胸熱に思えてね…」

出版社として読者受けを大切にしたいのだろうが、作者には作者の書きたいものがあるのだろう。


「…戦いものにするとして、どんなのがいいか……」

彼女的には人間VS喰種は普通すぎてつまらないらしい。

「――人間側に立つ喰種とか…どうでしょう」

「んん、いいねぇ。
となると人間のフリをして喰種を狩る喰種も欲しいなぁ」

忙しなくペンを動かす高槻。




「それで……うむ、…人間と喰種、両者の指標となる喰種…」




((知性がもたらす悦び))
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「よし、この線でいくとしよう!」
「え、本当にそれで…?」
「いいのが書けそうだ」
「はぁ…」
「いやぁ〜、今日は本当に助かりました〜。
今度またインタビューさせて下さいな。はい、名刺」
「ぇ、あー…私で良ければ…」


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