04
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店を閉め、ウタのマスク作りを眺めていた。

すると、珍しくイトリがやって来た。



「ねーウーさん、血酒いる?
情報師に分けてもらったんだけど」


手に握られているのはそこそこ大きめのボトル。

「んー今はいいや、酔っちゃうし」

「ねぇそれってどうやって作ってるの?」

いつも飲んでいるのを見るが、製造過程が分からない。
人間の血というのは知っているが、瓶詰めする理由が謎だ。




「取り出した血を熟成させるのよ。
要は腐った血ってこと」




イトリの説明はとても分かりやすい。

「うわぁ……どうりで独特の臭いがするわけだ…」

「これ飲むと気分が良くなるのよねぇ。
人間がお酒飲んだ時みたいに」

夢叶は酒に弱く、密室で充満した酒のにおいにもあてられる。

そのため、飲んだ時に気分が良いというのが理解し難い。

「へぇ〜……」


「でも私1人じゃ飲みきれんしなぁ…」

イトリも自分の限度は弁えている。

その時、店の扉が開いた。
蓮示がやって来たのだ。

来ると聞いていなかったので珍しい。

「ウタ、ちょっとお前に相談が…」

そこでイトリがいるのに気付く。





「蓮ちゃん、喉かわいたでしょ、これドーゾ」
「ああ……………」


「!!」





ぎょっとする夢叶。
この後どうなるかよく知っているのだ。

「…ん?これ新鮮なやつじゃ…」

一口飲んだ蓮示だが、次の瞬間に倒れた。

「蓮示くん弱いよ」

「知ってる。
久々に見たくなっちゃった」

楽し気な2人を他所に、夢叶はショーケースの裏に隠れた。



「………イトリ…………駄目だろうこんなことしちゃあ。
このイタズラっこ」



倒れたまま寝言の様に言う。

そしてムクッっと起きたと思えばウタに近付いた。

「イトリはいつもそうやって俺を困らせるんだから。まァそこがあなたの愉快で好ましいところでもあるのだけれどね。
なぁウタ、そうだろう。お前もそう思うんだろう」

いつもの10倍以上喋る蓮示。

「そうだねぇ」

「うわー、すごい喋ってる…」

自分で仕掛けたくせに若干引き気味のイトリ。





「しかし考えてみれば俺たちもずいぶん長い付き合いになったよな。腐れ縁というか悪友というかさ、正直この年になるまであなたたちといるとは思わなかったよ。でも困った時はいつも助け合ってお互いがお互いを気遣い支え合って手と手を取り合ってそうやってこの喰種の世界の荒波を自分たちの力で漕いで漕いで泳いで潜って浮かんで漂ってそうしていまこの場所に立つことが出来ているんだよな……それってすごい奇跡っていうか、まあ奇跡って言ったらなんだか軽い言葉になってしまうかもしれないけど、俺にとって大げさなことではなく、本当にそのぐらい素敵なことだと俺は思うわけだ……ね」





「うんうん」

ウタは平然としているが、夢叶は震え上がった。

この状態に入った蓮示はこの上なく苦手だ。

たまに「それはそうとあんたたちどこで服買ってるんだ?なんでこうも差がつくんだろう」とか言ってる。

ウタが手元が狂うから揺らさないでと言ってもスルーしている。



「いつも俺は口下手でうまく気持ちを伝えられなくてあなたたちに迷惑ばかりで本当にすまないと思ってる。俺ももっと話すのが上手で…ちょうどあなたたちみたいにね?そうしたらもっとお互いがお互いのことを理解できたと思うし。変な誤解を生むこともあった。俺はそうやって自分が意図することとは違うべつの違った角度に物事を捉えられてしまってうまく伝えられない…といってもそれはもちろん俺が悪いんだけど。それで問題を起こしたり衝突を起こしたり誰かを困らせたり悲しませたり本当に直すべきところだと思うし駄目なところでいい加減俺もしっかりしよろって自分でも思ってしまうところではあるんだ。いつか直したいなとは思っているんだよ。つまりなにが言いたいかと言うとな……あれなんだっけな。まぁ今日はとにかく俺たちの」



数分間聞き続けたがそろそろ飽きたようだ。

「蓮示」

いつもと呼び方を変えたウタ。

「ボクに相談があって来たんじゃなかったの?どうしたの?」

ようやく落ち着いたらしい蓮示。
それでも尚、酔いは醒めていないが。

「いや…研が来たんだけど怒らせてしまって……」

どう話せば良かっただろうか?と割と本気で相談したいようだ。





『…………飲めば?』

イトリとウタ、2人そろって同じアドバイスを送るのだった。










「ん、このにおいは夢叶?どうして隠れているんだ?ほら、出て来て一緒に話そうじゃないか。なんでそんなに嫌そうな顔をしているんだ?俺も傷付くぞ。いつもは嵐みたいにやってきて話していくだろう。もしかして俺がうまく話せないから気を遣って話してくれていたのか?すまない、俺はそんなことにも気付けなかった…。そうだ、今日はいつもは言えないような本音を聞かせてくれないか。直せるかは分からないが……いや、直す努力はする。とにかく、どうしたらいいか分からないんだ。夢叶もウタと同じで実際何を考えてるのか、俺には分からないんだ。あぁ、違うんだ。これも俺のせいでな、断じて2人のせいじゃないぞ。あー…だからな、取り敢えず俺の事どう思ってるか言ってくれないか?」


「……嫌い」


((あと3時間ほどお付き合いください))
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「研…この間は上手く話せなくて悪かった本当に申し訳ないだけど俺が伝えたいことはそういうことじゃないんだ結果としてお前を傷付けてしまったのは本当に俺の不手際で不器用で駄目な部分ではあるんだけどどうかそんな俺を許してほしい俺は芳村さんも大事だしあんていくの皆のことも大事お前のこともちゃんと考えているお前がどうすれば正しい方向に歩いていけるか…そういえばお前は1人で歩いて行けるって言って俺の手を払ったよな正直俺はあのときちょっと傷付いたぞまあそれはお前が本当に一杯一杯で傷付いて誰かを受け入れる余裕なんてそこになかったからなんだろうけどでももうすこし優しくしてくれてもよかったんじゃないか…いやまあそれはいいはいいそんなことよりも研お前が知りたがっていたことだが話せることと話せないことがある芳村さんのことは俺もすべて知っているわけではないし話せない部分というのも出てくるそれは了承したうえで俺の話を聞いてくれ消してお前をだまそうとか傷付けようとしているわけではないんだそれだけは理解してほしい……それでは話すよ」

「(今日はすごい喋る……)」


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