凹を埋めるもの == == == == == ウタがイトリの店を訪れたのは夜も更けた頃だった。 「…イトリさん、血酒貰える……?」 表情はいつも通りでも、纏う空気は悲し気だった。 「……好きなだけね。 でもその前に、」 ウタの手を見てタオルを濡らす。 「手、拭きなって」 乾きかけて赤黒くなっている血。 唇に付いている赤から、1度だけ嗅いだことのある香りがして、この場の誰もが、彼が葛藤の末に選んだ結末を悟った。 「………」 しかし拭く気は無いようでタオルを受け取らない。 イトリは諦めて血酒をボトルごと出す。後からグラスを添えるが、ウタはすでにボトルに口をつけていた。 自棄酒状態のウタには、流石のイトリやニコも口をつぐむ。 その時、ウタがつけているブレスレットを見つけた。 叶華がウタに教えてもらって作ったそれ。 きっとそれは、壊れるまでそこにあるだろう。 そして壊れても記憶の中で残り続けるのだろう。 「ーーそろそろなんだけどねェ…」 「どうしたもんかねぇ。 他の連中にさせるには相手が相手だし」 「ま、次のオークションまでに……」 ゴト… イトリたちが座るカウンター席。 空になったらしいボトルが少し荒く置かれた。 「お、っと………何だねウーさん」 イトリは後ろから伸びてきた手に多少驚きながらも、平生と然して変わらない様子で問い掛けた。 「浮気に走るには早すぎだぞー」 首に回った腕をぺしぺし叩いてみる。 「あぁ………ごめんねイトリさん…」 ぼーっとした様子のままイトリから離れる。 「女の子なら似てるかなって思ったけど………。 やっぱり違うなぁ……」 イトリは大きなため息をついた。 「(こんなになるなら止めときゃよかったのに)」 「ぼくちょっと出てくる……」 その言葉に勘が働く。 「(叶華の代わりに女の子狩りって……)」 純粋に叶華っぽい子を探すのだろう。 だが結果的に失望して殺すのは目に見えている。 「ちょいちょい、ウーさん。 今日は大人しく自棄酒してなって。 叶華の代わりなんて探しても見つかんないんだからさ。 (いま野放しにしたら何人殺してくるか分かんないし)」 ((同じ形がないと知っていても)) == == == == == == == == == == 「………じゃあおかわり」 「はいよ(こりゃ、明日血酒仕入れとかなきゃねぇ)」 「イトリさんまだ?」 「あーはいはい、ちょっと待って」 「………ねぇ、それちょうだい」 「あら、アタシの飲みかけで………いいわよ!間接ね、間接!」 「どーでもいいから」 「ちょいウーさん待った!なんかヤバイから! ほら!おかわり!さ、飲んで飲んで!」 「ありがと………それもちょうだい」 「はぁい♪あ、なんなら直接でもいいわよ〜」 「そこのオカマ!傷心してる相手につけ込むんじゃない!」 ← | → |