忍び寄る影
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「あれ、神蒼空一等じゃないですか」



仕事を終え夕飯の買い物をと思っていると、名を呼ばれた。

同じ名字ならいないこともないだろうが、階級がつくなら多分自分のことだと、声の元を振り返る。


「旧多一等、奇遇ですね」


そこにはいつもの黒スーツを着た旧多がいた。

「ほんとほんと、奇遇ですね。
奇遇ついでに一緒に食事どうです?」

ニコニコ笑って近付いてくる。

「え?今からですか?」

「まだカゴに何も入れてないみたいですし、ね」

そう言ってカゴを戻して店を連れ出される。




「そこらの居酒屋と高級レストラン、どっちにします?」




どやら断れないようだ。

「……じゃあ居酒屋で…」

高級レストランなんて堪ったもんじゃない。
食事マナーなんてろくに知らない。

「それは良かった」

聞けば、最近まで大食いの彼女がいたらしい。

「男として格好つけたくても財布は軽いですし?」

それを言っている時点で格好つける気がないのは分かる。

「(何か目付けられることしたかな……?)」

なんてことを考えながら後を追って居酒屋に入った。










「いやぁ、女性連れで店入れるっていいですね〜」


酒が入って酔っている旧多。

「(……演技上手だなぁ…)」

フリをしていることに気づいている叶華。

「綺麗な人だと尚更」

好きだなぁ〜、なんて上機嫌に言っている。





「私も好きですよ、旧多一等の完璧な演技」





「おや……バレてました?」

誤魔化すこともせず、表情を一変させる。

「や〜、いい目してるなぁ。
あの人が自分好みに育てただけのことはあるなぁ」

あの人、と言う言葉に1人の喰種の顔が浮かぶ。

だが、決して表情には出さない。

「うわぁ、煽っても全然読めない、すげぇ〜」

そのリアクションに、1つの可能性に気付く。



「あ、隠さなくても知ってますよ?
ピアスにタトゥー、4区のマスク屋……でしょ?」



やっぱり、と諦める。

「あ、始末してやろうとか思ってます?」

同じ階級でもキジマの腰巾着には負けない自信がある。
だが、その姿すら偽りの可能性は否めない。

「そんな警戒しなくても」

何か喋りましょーよ、と言ってくるが無視する。



「僕もメンバーの1人なんですよ」



((道化の意図))
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「あ、そこ個室があるみたいですよ」
「それが何か?」
「神蒼空一等はまだ独身じゃないですか。
僕なんかと変な噂立てたくないですよね」
「別に気にしませんけど……事実無根なので」


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