吸血鬼のサガ
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「あはぁ〜、これは見られてますねぇ」



離れた建物の屋上を見るフェリド。

その隣にはミカが座っている。

「……見られている?」
「いえいえこちらの話です」

どうやらミカは気付かなかったようだ。

貴族と一般吸血鬼の間にはどうしても差ができる。


「ところでミカ君。
君は血を吸わなくていいんですか?」


2人の下では吸血鬼たちが血を吸っている。

「……うるさい、お前には関係ない」

「で〜も、戦時中の今飲まないと、吸血鬼の街では法に縛られて直接人間の血を飲めませんよ〜?」

そのためか、多くの人間が吸血されている。





「……はっ、お前はお法を守らず僕の血を飲んでたじゃないか。
フェリド・バートリー」

「はは、人聞きの悪いこと言わないでよミカ君。君の方から飲んでと言ってきたんでしょう?で、僕の屋敷から銃や吸血鬼の都市を脱出するための地図を盗んでた」





ーーフェリド様は貴族で何でも買ってくれるんだよ!

ーーその代わりにお前あいつに何されてる?

ーーあは、罠とも気付かず馬鹿だなぁ



今でも鮮明に浮かぶ。
優やルカの辛そうな表情も、フェリドの不敵な笑みも。

「僕はお前の道楽で家族を皆殺しにされた」

「あーらら、吸血鬼になった今もまだそんな古いことを怒ってるんですかぁ?」

フェリドを睨み付けるミカ。

しかしそんなことをしても無意味だと知っている。


「いや…僕が怒りを感じるのは、家族を守るだけの力がなかった自分にだけだ」

「ふふ、相変わらず自罰的ですね」

フェリドから離れ、同族が血を吸う中に入っていく。

ただそれは吸血のためではない。





「で、最後に残った家族ーー百夜の優ちゃんとルカちゃんだけは守る〜……ですか?」





愛だなぁ、とミカの行いを笑う。

「あ、ミカ君」

人間の横を素通りするミカに言う。

「でもほんとに人間の血は吸っとかなきゃだめですよ。血が欠乏したら僕らは暴走して"鬼"になっちゃうんだから」

ミカは鬼がどういうものか知らない。

だが、今周りにいる人間を貪る吸血鬼も醜いと思った。















4年前

吸血鬼都市
サングィネム


ミカの前には吸血鬼の女王クルルがいた。

そして、クルルとミカの間に子供が倒れている。

「さあミカ、この人間の血を吸いなさい。
そうすればあなたの細胞は動きを止める」

その子供はミカのための食糧だった。




「人間を超越した力と老いのない体。
完全な吸血鬼へと変貌する」




息を乱すミカは衝動に耐えているようだった。

「我らの同胞にーー…」

「…ぼ、僕は吸血鬼になるつもりはない!」

クルルはミカの言葉に笑うと立ち上がった。

「そんなこと言っても体は我慢できないでしょう?全身が痛いはず。渇いて渇いて仕方ないはず。我慢せず欲望のままに…」

悔しいことにクルルの言う通りだった。

「うるさい!!」

顎にかけたクルルの手を払いのける。





「…じゃあこのまま死ぬ?」

「吸血鬼になるくらいなら…死んだ方がましだ!!」





一瞬同情するようか顔をしたクルル。

「まぁ確かに…千年二千年と成長もなく退屈するのは賢い選択じゃないかもしれない…。でもあなた…もう普通には死ねないわよ?」

クルルによってミカは変えられた。

血を飲まなければ意志のない醜い鬼に変わってしまう。

だがそれでも、ミカは頑なに人間の血を拒んだ。


「もしくは…」

自分の腕を爪で引っ掻いた。

「人間ではない私の血を飲み続けるか」

クルルの血がミカの頬に飛ぶ。
滴る血を目の前に、さらに息を荒くする。



そして遂に…。



((血を飲まずにはいられない))
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「そんな、ことよりっ…ルカはっ…」
「そんな状態でもあの子を気にするのね」
「ルカはどうなって…!」
「あの子はフェリド・バートリーに預けたわ。
だから私の管轄外よ」


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