愛玩すべきキミへ
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「帰ったよ♪」


屋敷に戻ったフェリド。

「あれぇ?またあそこかな」

部屋が空っぽなのを知ると、さらに屋敷の奥に行く。

中庭に出る扉の前。
開け放たれたそこからは新鮮な空気が入り込んでくる。






「ルカちゃん見ぃーつけた♪」




壁に寄り掛かってルカの後ろ姿を見る。

中庭の中心には浅く水が張ってある。
ルカはそこに立っていた。

水を掬っては、手のひらから溢れ落ちるのを眺めている。


ほっそりとした足は腿から露出し、足首まで濡らしている。

着せていたマントは落とされ、水をたっぷり吸っている。



「何やってるんです?」


華奢な背中に問えば、少しだけ視線を寄越す。

ルカは手のひらの水を落とすと、背中から倒れた。

バシャッと水が跳ねる。
砂を敷いているが、衝撃は相殺しきれない。


「あーあ、」

フェリドは水際まで寄る。

ルカの長い髪がどんどん水を含んで重くなる。

「……お昼寝」
「こんなところで?」

先程の質問の答えであろう言葉に苦笑い。

「うん……」

本人は本気らしく、目を閉じている。



フェリドは自分の髪を結っていたリボンを解く。


靴が濡れるのも構わず水に足を踏み入れる。
するとルカの紫の双眸がフェリドを捉えた。

「手、貸して」

すると水が滴る腕が2本とも上がる。

「こっちでいいよ」

その片方を取り、手首にリボンを結ぶ。
蝶々結びにしてやれば、嬉しそうにそれを眺めている。

でも一瞬で興味を失ったようで、手を落としてしまう。

リボンは水を吸い、ルカの肌に張り付く。

それが気持ち悪かったのか、解こうと手を伸ばす。



「だぁ〜め」



フェリドに手を掴まれる。

空いているもう一方の手でルカの頭を撫でる。

ルカは数度瞬きをし、首を傾げる。






「貴方、だぁれ?」






とぼけているような感じではない。
子供が好奇心で親にものを尋ねている風な表情。

「その質問はもう4回目」

フェリドは気分を害するわけでもなく笑った。

「フェリド・バートリーだよ」

「フェリド…バートリー……?
………フェリドくん…?」

復唱して首を傾げる。


「そうそう、僕の名前覚えた?」

「うん、覚えた」

無邪気に笑って答える。

「本当かなぁ〜?
それも4回目だよ?」

ルカは解いたことで落ちてくるフェリドの銀髪で遊ぶ。

「フェリトくん〜」

「うん、フェリ"ド"ね」

早速に間違えているルカにため息をつく。



遊んでいたかと思えばもう寝ている。

自由気ままなところは本当に子供らしい。

フェリドはルカを抱き上げる。
自分の服にまで水が染み込んでくる。


水が跳ねた頬を撫で、鼻先へキスする。





「これから楽しくなりそうだね」




((そばに置いて可愛がりたい))
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「も〜また僕のこと忘れたの?」
「?忘れてないよ、知らないもん」
「あはぁ〜、酷いなぁ。
昨日も一昨日も名乗ったのに」
「………?」
「あ、もしかして構ってほしくて忘れたフリしてるの?」
「………スー……スー」
「話してる間は起きててほしいな、虚しいから」


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