抜け落ちたキオク
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「……ミカ…」


ーー全部捨てて僕と逃げよう!!


与一がみんなに伝えに言って1人になった病室。

「じゃあ…ミカが生きてたのも夢じゃないのかよ…」

鮮明に思い出すミカの顔や声。
4年前と比べると随分成長していた。

「…うそだろ?はは…ははは……」

もう笑えてきた。





「あいつ、ほんとに死んでなくて……よかった…。
ほんとによかった……





優は嬉しくて涙を流した。

「え〜と、泣き虫くんの部屋はここですか〜?」

その声に驚いて扉を見る。

「もう顔ぐちゃぐちゃですよ」
「え、え…いやこれは違っ…!!」

シノアがいた。


「あははいいですよ、別に。
そりゃ泣くでしょう、家族が生きてたんですから」


シノアは優が目覚めたことを純粋に喜んだ。

「……って、いったいどうなってんだ?」

ある時から記憶がないらしい。

「そうですか……優さんは突然気絶しました。
部隊は壊滅の危機」

だがそこに援軍が来た。





「柊暮人中将及び柊深夜少将が率いる渋谷本隊が」





おかげで貴族を除く一般吸血鬼はかなり殺せた。
その上、数匹は捕獲できた。

それでも、貴族たちのほとんどに逃げられた。

「そ…それじゃあ……」

「ミカさんのことですか?」

シノアの核心を突いた質問。

「残念ながら逃がしました」

ミカが死んでいないことに一安心する。

「逃がしたってことはミカは俺を置いて自分から逃げたのか?」

言葉を濁すシノアに、事実だけを求める。



「ミカさんは最後まで貴方の心配をして……ですが吸血鬼に連れ去られてしまいました」



「……そうか」

「はい」

「そうか、わかった」

ありがとう、と笑顔を取り戻す。

「今はあいつが生きてるのが分かっただけで十分だ。
なあシノア、心配してくれてありがとう」

素直な感謝に少しびっくりするシノア。






「……それともう1つ。
ミカさんが反応してたのでもしかして、と思ったんですが……。


ーールカという方も優さんの家族ですか?」






「ーー!!あそこにいたのか!?」

ベッドから起き上がる優。

「お、落ち着いてください。
まだ起き上がっては…」

「いいから教えてくれ!ルカがいたのか!?」

シノアは優に、ベッドに戻ったら教えると言う。

渋々それに従う優。


「一般吸血鬼の服を着てあの戦場にいましたよ。
グレン中佐と戦い追い詰めたのも彼女です」


「それじゃあ…ルカも」

吸血鬼なのか…、と若干落ち込む優。

もしそうなら逃げた自分のせいだと思うからだ。

「……それはどうでしょう」

それを見かねたシノアが口を挟む。

「確かに彼女は並外れた身体能力を持っていましたが、自身の武器も持っておらず、吸血行為も見られませんでした」

ただ吸わなかっただけとも言えるが、武器もないとは。

戦場に赴く者としては首を傾げる。





「何より彼女には吸血鬼特有の牙がなかった。

これは推測ですが、ルカさんは人間のままで吸血鬼に弱みを握られ利用されているのかもしれません」




((果たせなかった家族との再会))
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「病院を脱走して1人で吸血鬼の都市に乗り込んりしないで下さいね」
「え?」
「ああ〜」
「うん、わかってるよ。そこまで馬鹿じゃない。
与一やお前にこんなに心配されてるしな…」
「……そうですか、よかったです」


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