![]() == == == == == レイシーはシュナイゼルの住まう宮殿の使用人なわけだが、彼のお気に入りということもあって様々な場所について行き、その生活全般を支えている。 特に、戦地に赴く際はレイシーひとりを連れていくのが常だ。 「お茶をお持ちしました」 戦況が拮抗し消耗戦になっている戦争の指揮を任されたシュナイゼル。 通常業務に加え、周辺の地理や物量などを確かめ、作戦を詰めているようだ。 息抜きのお茶を出さないと延々と仕事をしている。 「すまないね、ありがたくいただくよ」 「殿下、少しはお休みいたしませんと」 それでも書類とにらめっこを続けている主君に溜め息を吐く。 時間が空いた時にしか作らないお菓子を出す。 すると「おや、」といって漸く手が止まる。 「船旅だとレイシーのお菓子まで食べられるから嬉しいよ」 戦争に出兵しているというのになんと暢気な、と思いつつも言わない。 「手持ち無沙汰でしたので」 「休んでいても構わないのだよ?」 主人が働いているのに使用人が休めるわけがない。 「殿下は少々働きすぎです」 「でも昔言ってくれたじゃないか。 仕事をしている私"は"、好きだと」 は、を強調して言わないで欲しい。 「……えぇ、臣民のためにご立派ですから」 仕事をしている時のシュナイゼルは、幼馴染みのレイシーでも惚れ惚れするくらい、いい男だ。 まあ、私生活のマイナスが祟って相殺されてしまうのだが。 「ではもっと頑張らないとね」 そう言って嬉しげにケーキを食べ、褒めちぎってくる主君に、左様でございますか、くらいしか返せない。 無理しすぎだと判断すれば、あの副官が進言してくれるだろう。 レイシーは所詮メイド。 主が快適に生活を送れるように尽くせばいいのだ。 結局、戦況は数日足らずで動いた。 「疲れただろう? 暫く休んでいて構わないよ」 そう命を受け、小部屋に下がる。 と言っても、彼の部屋からそうはなれていないのだが。 「ーーカノン様」 通路で擦れ違う主君の副官。 「あらレイシー。 今日もご苦労様」 「いえ、カノン様こそ……」 きっちりと制服を身にまとい、隙なく化粧をしているが。 「お疲れのようですし、お茶をお持ちいたしますよ」 お互い、長くシュナイゼルに仕えているため少しの変化にも気付くことが出来る。 シュナイゼルに合わせて生活するとどうしても自分のペースが乱れるものだ。主君より先に休むわけにもいかないので、側近であればあるほどハードスケジュールになる。 「…レイシーの目は誤魔化せないわね」 「レイシー」 耳に馴染んだ声で名を呼ばれて振り返る。 すぐそこの部屋からシュナイゼルが出てきていた。 「申し訳ありません殿下。 お部屋のそばで……」 煩かったかと詫びる。 「レイシー、私は休むよう言った筈だよ」 そう言われてもいつも休んでいないのは知っているくせに、今日は強めの語気だ。 「ですがカノン様もお疲れのようですしお茶くらい…」 「そんなに疲れたのかい?カノン」 カノンは2人の表情を見比べ、悪戯な笑みを浮かべた。 「えぇ、それはもう。 ですがレイシーに労ってもらえば頑張りますわ」 レイシーの反応とは裏腹に、珍しく大きな溜め息を溢すシュナイゼル。 「暫くこの部屋で話をするから、私の分も含めて運んでくれるかい?」 「かしこまりました」 疲れなど伺わせない足取りで準備に下がるレイシー。 見届けたカノンは僅かに暗い顔をしている主を見た。 「自分以外に優しくされるのがそんなにお嫌ですか?」 「分かっているならレイシーの前で疲れた風にしないでくれないかな」 本当は全く疲れていないであろう副官を部屋に入れた。 == == == == == == == == == == 「……お疲れの時にこう険悪な雰囲気を作らないで下さい」 「険悪?そんなつもりはないのだけどね」 「そうよレイシー。あら、美味しいお茶だわ」 「ありがとうございます。お呼びいただければいつでもご用意致しますよ」 「レイシー、君は私のメイドだろう?」 「殿下のお仕事が捗るよう、周囲の方を支えるのも仕事ですわ」 「ものは言い様だね。カノン、健康管理は自分でするように」 ← | → |