友情と愛情と罪悪感
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レイシーが危篤状態に陥った。

シュナイゼルに改めて必要とされた2日後のことだった。






シュナイゼルは宰相府にいた。


会いにはいけなかった。

レイシーの死を見届ける覚悟が、まだ決まらなかった。

明日なんて来なくていい。
永遠に、レイシーが生きる今日が続けばいい。



そこへ副官が慌てて入室してくる。

その表情に、報告を聞く前に安堵を覚えさせた。





「レイシーは一命を取り留めたようですっ」



本当なら渡したかった騎士証。

祈るように持っていたそれを机に置き、見舞いに向かうのだった。





















「レイシー、」



無事でよかった?心配したよ?

普段より様々なものに繋がれたレイシーに、言葉が続かなかった。


生きて傍に居てほしかった。
だがこれでは、無理矢理生かされているだけ。

魂というものがあるなら肉体という器に辛うじて繋げているだけ。

そこに彼女個人の尊厳はないかもしれない。



こちらをぼんやりと眺めていたレイシーの瞼が閉じる。


「……?」

いつもなら、シュナイゼルやカノンには一定の反応を示すのだが…。

「殿下…」

対応に当たっていたと見られる医師が出てくる。

「ミリアム卿は一命を取り留めたものの、脳へのダメージもあり意識が半覚醒状態のようでして…。他にも言語能力や識別能力に低下が見られるかもしれません」

医師も"生かす"ことで精一杯だったのだろう。

シュナイゼルは彼を咎めることなく、皆に下がるように命じた。

覗き込んだ顔は人形のように温かみがなく、元からシャープな輪郭は痩せこけていた。







「せめて、私の手で……レイシー…」


シュナイゼルは何度も人工呼吸器を外そうとした。

だが、レイシーの意識が朧気ながら戻る度に、その表情の些細な変化や声にならない言葉を伝えようと震える唇が、彼を躊躇させた。




レイシーの命を繋ぎ止めるそれから手を離し、頬に触れる。

触れた肌が自らの手より冷たくて、シュナイゼルは目を伏せた。


「……すまない」

じきに、休ませてやらねばならない。
痛み、苦しみから解放して。







「君との約束を果たせていないのに…」





思い出す記憶。



『シュナイゼルさまをお守りするのはわたしですっ。お茶だって淹れますっ。何も賭けないチェスならしますっ』

宮殿で共に遊び、護衛やメイドに扮するレイシーを眺めていた時間は幸せだった。

『そうやって斜に構えて人に突っかかるのがカッコイイとか思ってるの?思い上がりもいい加減にしなさい!』

貴族学校で盛大にカノンと喧嘩したレイシーの怪我を看ながら、女性らしさを説くも悉く聞き流された日常。



共により良い世界を目指して語り合った。






『平和な世界を、共に』




((作る、生きる))
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「おいミリアム」
「あら、なぁにマルディーニ?またボヤ騒ぎなんて起こしたら…」
「やる。こないだので燃えたって」
「ハンカチ…えぇまあ殿下にいただいた大切なものだけど」
「贈り直してあげただろう?」
「えぇありがとうございますシュナイゼル様。
そういうわけだけど、ありがたくいただくわマルディーニ」


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