人生最後の
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父、皇帝の崩御を悟ったシュナイゼルは、ビスマルクのギャラハットが去るのを見届け、カノンに命じた。


「秘密裏にレイシーとコンタクトを」











ルルーシュがブリタニアの皇帝となった。
そして今、超合衆国加盟のためかつてのエリア11、日本に出向いている。



「殿下……」

カノンはフレイヤのスイッチに手をかけた上司を、痛ましげに見上げた。


「カノン、レイシーは…」

どんな非情な決断も容易く下してきた男を迷わせるのは、ただ1人の女だった。

どんなものでも手に入れられるシュナイゼルが唯一、欲しいと思っても得ることが叶わなかった存在。



カノンはあの日を思い出す。
レイシーにブリタニアからの脱出を要請したあの日を。















「そうですか、陛下が……」


彼女は目を伏せたが、そこに悲しみは感じられなかった。

「それで私に何か?
家の力が必要でしたら当主の方に直接…」

「レイシー様」

強く呼び掛ければ、通信画面の向こうにいる彼女の視線が漸くこちらを向く。




「すぐにブリタニアを出立するご準備を」




首を傾げるレイシーに、これまでのことを話した。


ルルーシュという名前に反応を示すレイシーに、彼女の実家がかつてはマリアンヌ皇妃の後ろ楯であったことを思い出した。

暗殺事件後、アッシュフォード家のようには余波を受けず、こんにちまで最上級の貴族であり続けた一族。だが主君から彼女の実家の力を借りるという言葉は一切出なかった。

シュナイゼルはただ、レイシーを、とだけ命じた。



「ルルーシュ殿下はブリタニアを憎んでおいでです。
本国は戦禍に巻き込まれるでしょう」

だから一刻も早く、と。

レイシーの表情は少しも狼狽えることはなく、毅然としていた。
そして下した決断は…。









「ご心配はありがたいですが、お気持ちだけいただいておきます」






「何故、ですか…?
殿下はレイシー様を案じて……!」

シュナイゼルが唯一、私情でもって命令した。

これだけは何としても遂行しなければならない。


「何故?それは私の言葉です。
何故私だけが逃げねばならないのですか」

その声は、姿は、カノンの知るレイシーではなかった。





「私とて皇族の端くれ。いいえ、貴族です。

力あるものの務めを果たさずして何のための特権階級ですか。
民を捨てて逃げるなどありえません」





それは本物の貴族の言葉であった。


「それに先程の話、それだけではないのでしょう?」

カノンは内心、舌を巻いた。

シュナイゼルから聞くレイシーの印象は、優しくも貴族然とした女性。それでも、長年彼を虜にするだけの思慮深さはある。



「ブリタニアを壊そうとしているのはルルーシュ殿下ではなく、シュナイゼル殿下なのではないですか」



なんと答えればいいのか迷った。

彼女はフレイヤやダモクレスのことをどれ程知っているのだろうか。ここで選択を誤れば、殿下と敵対する位置に行ってしまうのではないか。

「(こんな方なら殿下自ら説得されればいいのに)」

そうぼやいて気付いた。


「(レイシー様に拒絶されるのが怖かったのね……)」

彼女を理解しているからこそ、簡単には納得させられない。



「殿下には必要なのです、この行動も、貴女様も」







「お側には行けません。
私にはここでなさねばならないことがあります。
……死ぬことになっても」






覚悟の色が見えた。
決して曲がることのない信念が。

もう誰も、彼女の意思は変えられないのだと悟った。



「……だから、殿下に伝えていただけますか?」




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「殿下、この方は……」
「レイシーだよ。美しいだろう?先日父上の妃になったらしくてね」
「……殿下より一つ歳が下ではありませんでした?」
「ああ、幼い頃はよく時を共にしたよ。あの頃に戻れたら……などと言えば笑うかい?」
「笑えませんよ、あまりに無謀な願いで」


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