安らぎの宮
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「E.U.との戦争、一区切りついたそうですね」


「あぁ、皇帝陛下のご期待に添えているといいのだけれど、まだお目通りが叶わなくてね」

2人はテラスでお茶を飲んでいた。
疲れているであろう幼馴染みのために疲労回復の効能のあるお茶を用意した。



「父君に褒めてもらえなくて拗ねてらっしゃる?」


悪戯な笑みを浮かべるレイシー。

「レイシー……私を幾つだと思っているんだい。
そもそも皇帝陛下はそういうことはなさらないよ」

そこで何かを思い付いたのか、椅子を寄せてくる。





「でもレイシーが労ってくれるなら、これからも頑張れそうだよ」





そう言われてしまえば断れない。

20代半ばにして過労死するのではないかと、心配でたまらないほど働く幼馴染み。

レイシーは白手袋をしている大きな手を取り、優しく握った。


「お疲れさまです、シュナイゼル様」


その無事を安堵するように。

温もりを感じ、シュナイゼルも一層穏やかな表情を見せる。

「ここで一休みしていきたいくらいだよ」
「その時間さえ私たちは用意してさしあげられないのね……」

落ち込むレイシーの手を握り返す。





「私は大丈夫だよ。
君が誰のものでも、私はレイシーのためなら…」



「またそういうことを仰るんだから」





照れたように顔をそらすレイシー。

昔からこうしてアプローチはしてきた。
レイシーに贈る言葉にだけは、少しの偽りも混ぜなかった。


「そっそういえば、カノンさんは一緒じゃないの?」

「ん?」

ここでなぜ副官の名前が出るのかと首を傾げる。

「殿下の副官ともなればさぞお疲れでしょう。
お茶をご一緒できればと思ったのだけど…」

シュナイゼルの笑顔の温度が下がる。



「彼なら宰相府だよ。
今ごろ化粧直しかケアの最中じゃないかな」


投げやりに答えれば今度はレイシーが首を傾げる。

「そう、意外と余裕がおありなのね」

レイシーは小さな箱を持ってくると、丁寧に包んでシュナイゼルに差し出した。

「私が作った茶葉なのだけど、渡していただける?
いつも殿下の傍にいて大変でしょうから」

「……まるで母親だね」

レイシーの笑顔が再び凍りつきかけたのでそそくさと箱を受け取った。




「ところで、私には何かなのかい?」



軽い気持ちで問えばきょとんとするレイシー。

「…欲しがりですのね」

ため息をついていつもより近くに来る。















「この身は差し上げられませんが、私の一番大事な心はもうずっと昔に、シュナイゼル様に捧げておりますよ」










耳元で言われた言葉に思わず耳をおさえてしまった。

レイシーは少し照れた表情で、だが少しの揺らぎもない目をしていた。



「………そうだね。
それ以上を望むのは強欲というものか」

潔く諦め立ち上がる。


「またお越しください」

「今度は連絡をしてから、かな?」




((次はいつ来ようか))
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「お互い、いい歳になりましたね」
「1つしか違わないからね。
レイシーのせいで私は一生独身だよ」
「あらいやですわ、殿下ったら。
会う女性、会う女性口説いてらっしゃるのに」
「そんなつもりはないのだけどね」
「酷いお方、ご令嬢はそうは思ってませんわ」


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