行く者、追う者
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始業時間になっても、シュナイゼルは姿を見せなかった。

仕事をすっぽかしたのだ、あの真面目な男が。



「一体どちらにいらっしゃるのよ……!」


カノンは焦りで語気を強くしながら捜索を命じた。

未だにシュナイゼルなどに恨みを抱く者は多い。
気が気ではなかった



そんなカノンの元へコーネリアから連絡が入ったのは、それから30分後のことだった。




















「この通り、今朝突然兄上がいらっしゃってな」





通信端末を動かされたことで、困ったコーネリアの顔が消え質素な一室が映し出される。

彼女は今も暴動の鎮圧などで活躍しているが、今は郊外の屋敷でついてきた部下とひっそり暮らしているはずだ。

着飾ることを好まないコーネリアらしい部屋の奥。

1組の男女がいる。



よく見ると片や仕事をすっぽかした元帝国宰相、片やその男を捨てて行方を眩ませたはずの元婚約者。



「どうやっていらっしゃったのかわからないが、ずっとこの様子でな。何かあったのか?」

カノンはただ額に手を当てて謝罪した。

そして状況を説明した。










「成る程、通りで」

呆れながらも微笑ましげに義兄を見る。



かねてより親交のあったレイシーが夜中に転がり込んできた時から、何かあったのだろうとは思っていた。

そしてその翌朝にはシュナイゼルまでのこのこやって来た。


話を聞こうと部屋に通したのだが、この有り様だ。

非常に不満そうな顔で「裏切ったわね」とレイシーに言われたが冤罪だ。

それからシュナイゼルはずっとレイシーを膝に置き、抱き締めて何やら話し続けていた。

愛してるだの側に居てくれなど、甘ったるい言葉を吐き続ける兄に、どんな遠回しな嫌がらせののろけだとも思った。





レイシーのどんな言葉が仕事を放って出てくるまでのスイッチを入れたのか知らないが、こうして捕まえた以上、暫く逃がさないだろう。


親族や母国の帝都を消してみせたとは思えない重い愛だ。

コーネリアの裏切りを訴えていた目はもうない。

甘い言葉の数々に呆れを通り越して疲れきっている様だ。



昼にカノンがやってきた。

「仕事をすっぽかされては困ります」

だがそんな言葉にも耳を貸さなかった。
本当に終日、仕事をしなかったのだ。


その日、ギルフォードたちは非常に居心地の悪い時間を過ごすはめになった。




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「レイシー、昨日の話は冗談だろう?
そうだ、ずっと私が構ってあげなかったから気を引くためにあんなことを言ったんだろう?心配しなくてもほら、今日は1日君のために使うから。いや、今日だけじゃない、君が望むならずっとこうしているよ。だからレイシー、早く私のところへ戻っておいで。一緒に暮らそう。前みたいに。
ねえレイシー、愛しているよ」

「……姫様、これは何かの試練でしょうか?」
「……すまん」


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