3人だけのGWの過ごし方 - 1/2


side. A



『あー、もうっ!つまんない』



最初に声を上げたのは妹の杏奈だった。



――― でも分かる!俺もそう思ってた。



陽だまりが出来るウッドデッキの上。
風は柔らかく吹く午前10時半。傍らには、3つ分のアイスコーヒー。
並ぶビー玉のような色のそのグラスの色は、ブルーにグリーンにピンク。
世の中が既に動き出しているだろうこの時間に、俺たち3人は、ずっと家でまどろんでいた。



『GWなんて本当に意味無い。全員揃ってなかったらどこにも行けないじゃん!』

「でも、しょうがねーべ?みんな仕事なんだから…」

『なんで休み取らないかなー…。働き過ぎだよ、翔ちゃんたち』



GWの真っ只中。
でも小児科医の翔ちゃんに美容師の潤は、こんな時でも仕事が忙しい。
和はGW明けにすぐ始まる舞台のために、必死に稽古中だ。


残ったのは、俺とさと兄ぃと杏奈だけ。
どうすることも出来ない、この時間の使い方に疑問が湧いてきたのは、俺だけじゃなかったみたい。



『てか、逆に雅兄ぃはなんでいるの?』

「へっ?!」

『だって雅兄ぃだって、仕事があってもおかしくないじゃん。なんでいるの?』

「んふふふ…。確かに」



ウッドデッキの上で膝を抱えながら、杏奈が言う。
その隣ではさと兄ぃが、さっきまで直に寝転んでいたせいで少し汚れたシャツを軽く払っている。



「え?ダメ?俺、いちゃ。お兄ちゃん、杏奈とGWを楽しく過ごすために、わざわざ休み取ってきたのに?!ひどくない?!」

『あー。もう分かったってば!ありがと。雅兄ぃ大好き。でも、この3人じゃ何も出来ないじゃん』

「んふふふ。だな。…釣りでも行く?」

「え、てか待って。今、俺のことテキトーにかわさなかった?気のせい?」

『気のせいです、雅兄ぃ。そして、釣りには行きません、智くん。この前、潤くんに怒られたばっかじゃん』

「あれは…。杏奈が日焼け止め塗らなかったからじゃないの?それで、“もう杏奈のことは連れてくな”って怒られたんだよな〜…」



2週間前の日曜も、こんな感じだった。
耐えきれなくなった俺たちは、さと兄ぃの釣りに付いて行ったのは良かったんだけど……。



「確かに、ちょー怒ってたね。潤」



兄妹の中でも一番杏奈を大事にしている潤は、肌を真っ赤にして帰って来た様子を見るなり、激怒した。
俺は俺で、潮で服をべたべたにしてきたせいで翔ちゃんには怒られるし、和にはバカにされるしで、最悪だったのを覚えてる。
だから当たり前だけど、さと兄ぃの提案は却下だ。



『だって智くん、日焼け止め塗れなんて言わなかったじゃない…。とにかく、釣りはダメだって。雅兄ぃは何かしたいことある?』

「うーん…」



杏奈に訊かれて、少し考える。


正直、杏奈と一緒に過ごせるのなら何でもいいんだよなぁ。
それこそ、翔ちゃんたちが仕事だって知る前はディズニーランドとか行きたい!と思ってたけど…。
でもこの時間だと、完全に出遅れてるもんなぁー。ディズニーランドには。



「あっ!じゃあ、ショッピングにでも行かない?!アウトレットとかさ。俺が見立ててあげるよ?どっ?これ、良くない??」



そーだよ!だって俺、スタイリストだもん!
可愛い可愛い妹のためなら、少しぐらいお金使っても潤たちには怒られないだろうし……、



『それも却下』

「えっ?!」

「お…。なんか意外だな…」



却下って…、却下?なんで!?
すると俺たち2人に瞳を動かした後、抱えていた膝を伸ばし、そばにあるクッションを抱き締めながら杏奈が言う。



『…だってこの前、潤くんと翔ちゃんと買い物に行った時、酷い目にあったもん。他の女の子からイヤーな目で見られるし!学校の友達にも見られてたみたいで、変に誤解されるし』

「あ、ああ…」

「でも、翔くんと潤だからじゃないの?…雅紀とだったら、大丈夫じゃないの?それ」

『智くん、既に自分は行く気ないでしょ?…雅兄ぃともヤダ!この前、和兄ぃと行った時は、店員さんに“彼氏さんですかー?お似合いですねー!”なんて言われて、一気にテンション下がったもん。ショッピングどころじゃなくなる!』

「なんかそう言われるの、ちょっとショックなんだけど…。別にいーじゃん!恋人同士に間違えられるのって結構憧れだよ?俺。ひゃひゃ。それに下手なナンパとかされなくなるしさ!」

『いーやっ!嫌って言ったら、嫌なの!てか、何それ?変な憧れ!』

「雅紀、どんまい」



もーっ!俺だって潤に負けないぐらい、杏奈のこと大事に思ってるのにさー!
何?この違い。てか、和とかと買い物に行ってたの、俺知らなかった…。



「うーん…。じゃあ、どうすっかなぁ…」



さと兄ぃがそう言って、再びデッキの上で寝っ転がる。
それを見て、杏奈と俺も横になる。



「そーだなぁ…」



太陽はもの凄く明るく輝いて、空は綺麗な青だ。雲も少ない。
こんな天気の良い日に働いているなんて、翔ちゃんたちは杏奈の言うとおり真面目すぎる。
今頃、何してるんだろう?



和は稽古でしょ。潤は女性客に色目を使われながらも、ストイックに仕事してるはず。
翔ちゃんは“センセー!”なんて言われながら、病室を見回ってるかも……、



「あっ!?」

「『!?』」



いいことを思いついて、飛び起きる。
俺の突然の声とその様子にびっくりしながらも、さと兄ぃたちも静かに起き上がった。



「ねえ!あれしない?前もやったじゃん?ほら、」

『“あれ”じゃ分かんないってば、雅兄ぃ!』

「えっと、ほらっ!お仕事訪問!翔ちゃんとこの病院行って、仕事ぶりを見てこない?つって!ひゃひゃひゃ」

「『ああ…』」



俺の提案に、声を揃えて返す2人。


今なら、行けばちょうどお昼時だし、もしかしたら一緒にランチを食べられる可能性もある。
何より、あんまり見たことないんだよね。翔ちゃんが働いてるとこ。



「前は潤の店に行ったんだっけ…」

『で、本気で怒られたんだよね。“邪魔すんな!”って。ふふ。でも、潤くんはやっぱりカッコ良かった!』

「2回目は和の稽古場に行ったよね!完全に無視されたけど。ひゃひゃ」

「俺、本当に見えてないのかな?って思った。和の時。それぐらい無視されたな。あれ…」

『あはは!でも家に帰って来たら、やっぱり怒られたよね?!信じられないぐらい冷たいトーンで!』



そう。過去2回は潤と和の仕事現場へ様子を見に行った。
その度に怒られるんだけど、それを2人とも思い出したらしく、笑顔で話す。



「ね!だからさ、3回目は翔ちゃんのとこに行かない!?時間的にもお昼に間に合うかもだし!」

『うんうん!それに翔ちゃんなら、たぶん怒らないよ!こう…、上手く言えば!』

「うん。翔くんは怒らないと思う。大丈夫だろ」



ぶっちゃけ、海に行った時怒られてる俺は、なんで2人が“怒らない”って断定出来るのか謎なんだけど、別にいいや!
どっちにしろ、確かに翔ちゃんは滅多に怒らない。
海に行った時だって、よく考えたら注意程度だったかもしれないし!



俺の【お仕事訪問!翔ちゃん ver.】の提案に、3人で笑顔になる。
そして、手を上げてハイ・ファイブをした。



「どうする?どうする?お弁当とか作って持ってく?ひゃひゃ!」

『サンドウィッチならすぐに作れるよ!飲み物も、朝潤くんがアイス・ティー作っておいてくれてったし!』

「ついでに手紙とか書いて入れちゃう?“お仕事お疲れ様です”的な!」

「え?でも今日は翔くん夜勤じゃねーべ?夜会うのに手紙渡すの?」

「いやっ!そこは、“敢えて”!みたいな。ひゃひゃひゃ!」

『何それ〜!でも、翔ちゃん喜びそう。感動しちゃうかもよ?!』

「ヤバい!ちょー楽しいね!?これっ」



時計を見ると、10時50分。慌ただしく始まった、“今日の過ごし方”。
3つのグラスを片づけ始めるさと兄ぃに、ランチボックスを出そうとしている杏奈。


やっと、時間が動き始めた。



「あ。じゃあ、俺はアイス・ティー用意するね!杏奈」



せっかくのGW。休みは、なかなか揃わないんだけど。
でも、だからこその過ごし方があるの。俺たちには。


普段なかなか見れない、もう一つの顔。
一生懸命、俺たちのために働いてくれているその姿を見に行くよ。
そうすれば、全員が揃う今日の夕食も、楽しく会話が出来るはずだから。



「雅紀、それアイスコーヒー…」

「え?」



あと1時間後には、俺たち3人が特製のお弁当を持って行くから待っててね!





End.


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