Happy Merry Birthday - 1/2
「杏奈、これ食べたら、次は何行く?」
『タン塩の後は、やっぱりカルビ!カルビ行こう、雅兄ぃ!』
「ひゃひゃ、だよね〜!いぇーい!」
『ふふふ。いぇーい!』
七輪の上で、ジュージューと焼けるお肉。それが残り2枚になったところで、テーブルを挟んで目の前に座る雅兄ぃとハイタッチをする。 きっと、潤くんや翔ちゃん、和兄ぃがこの場にいたら、“行儀悪い!”とか“騒ぐな!”とか色々言われること必須だけど、今はその心配は無かった。 美味しそうに焼けたお肉を、雅兄ぃがトングで取って私のお皿に乗せてくれると、2人でまた“美味しそう〜!”と声を上げる。
『ん〜!やっぱり、久しぶりにお肉食べると美味しいね!』
「ねー!でも俺は、杏奈と一緒に食べられれば、何だって美味しいけどね!ふふふ」
その言葉に、若干の違和感?罪悪感?よく分からないけど、そういう類の感情が私に芽生えるのは、たぶん今日が12月25日だからだ。 世間的にはクリスマス当日。でも、私たち家族にとっては、雅兄ぃの誕生日の“次の日”。 つまり、毎年恒例でいくなら、今日は世間と同じように私たちにとってもクリスマスであって、24日の雅兄ぃの誕生日と続けて、2日連続のパーティになるはずだったのだけど…。
『雅兄ぃ、ごめんね…?クリスマスと合同になっちゃって…』
「ひゃひゃひゃ。だーかーらー!良いんだって、そんなのは!俺は別に気にしてないし、今言った通り、杏奈と2人でこうやって美味しいもの食べられれば、それだけで最高に嬉しいんだからっ!」
『う、うん?だから、一応もう一回言っておくけど、この後、翔ちゃんたち全員来るからね?』
「でも、それまでは杏奈と2人だし!今日は杏奈と一緒に1日中買い物とか出来たから、最後ぐらいは全員で誕生日とクリスマス祝った方が良いでしょ?だから、翔ちゃんたちが来るのも含めて、全然オッケー!全然嬉しい!」
『っ、ふふふふ!なんで、そんなに上から目線なのー!和兄ぃが聴いてたら、絶対に怒られるからね、それ!』
「ふふふ。言わないでね?」
『ふふっ。いーよ』
24日の昨日、雅兄ぃの誕生日は智くんの誕生日に続いて、再び兄妹全員が揃わない結果になった。 翔ちゃんは急患の患者さんが入って、そのまま夜勤。潤くんは雑誌のヘアメイクの仕事が、押すに押して長丁場。和兄ぃは年明けから始まる舞台の台本と演出に急な変更があって、座長ということもあり、居残り。 せめて誕生日の主役である雅兄ぃはいるよね、って思ったら、潤くんから“担当のスタイリストが病気で倒れたから、雅兄ぃ来て!”の電話が入って、あっけなく誕生日の予定は崩れた。 昨日は、智くんと私だけが家に居て、延々とDVDを観たり、ゲームをやって対戦したり、疲れたらお昼寝したり、なんだかダラダラと1日を過ごしてしまったのだ。
だからこそ、今日は挽回する為に必死。今日は、以前和兄ぃにしてあげたように、朝から雅兄ぃと一緒に買い物や食事をして、1日中デートしていた。 今は、その最後のイベントで雅兄ぃのリクエスト、2人で焼肉を食べているところ。 もちろん、誕生日とクリスマス!家族が全員で過ごす日!ということで、これから全員がここに来る予定だけど、雅兄ぃにとってはそんなの関係無いらしい。
「でも、今日はやっぱりどこに行っても混んでたね。昨日も思ったけど。クリスマスの2日間って、俺たち大抵いつも家の中で過ごしてるからかな?ちょっとびっくりしちゃった」
『ふふ、そうだね。昨日、智くんとDVD借りに外に出た時も混んでた』
「? 、DVD観てたの?」
『うん。【サウンド・オブ・ミュージック】とか、そういうミュージカル映画ばっかり。で、時々一緒に観ながら歌うの』
「ひゃひゃ!楽しそう」
『あとはー…。また、潤くんのプレゼントを探してたりしたんだけど…』
「え!?また探してたの!?」
『うん。でも、やっぱり見つからなかった…』
潤くんのプレゼント、というのは、これまた我が家の一種の恒例行事。ただし、潤くんを除く5人だけの。 雅兄ぃに贈る誕生日プレゼント以外に、それぞれに贈るクリスマスプレゼントを用意するのだけど、潤くんが余りにも毎回良い物を用意しすぎて、こっちのプレゼントと釣り合いが取れなくなってきたことが原因だった。 なので、先に潤くんの用意したプレゼントを見て、それからプレゼントを買おう!と和兄ぃと探し始めたのがきっかけ。 最初は翔ちゃんが、“そんなのフェアじゃなくね!?”と注意していたのだけど、“プレゼントの釣り合いが取れない方がフェアじゃない!”と押し切ったおかげで、今では全員がクリスマス近くになると、潤くんのプレゼントを家中探し回っていたりする。
……もちろん、それが見つかったことは無いけど…。
「あれ、どこにクリスマスまで隠してんだろうね〜?潤の部屋とか探すのだって、結構なリスクだよ、あれ?!絶対バレたら怒られるもん!」
『分かんない。もしかしたら、職場とかに置いてるのかなぁ?』
「うーん…。で、結局杏奈は、今年のプレゼントはどうしたの?お兄ちゃんだけに教えて!?ね!」
『ふふ、ダメだってば!内緒!家に帰ったらね!』
「え〜!別にいいじゃーん、ひゃひゃ」
そう言って、今度は雅兄ぃが次のお肉であるカルビを網の上に乗せていく。 普段は焼肉をする場合、潤くんがこういう作業を引き受けているせいか、食べる専門の雅兄ぃがやっているのはなんだか新鮮だ。
「杏奈〜、他に何か食べたいのあったら言ってね?」
『うん。雅兄ぃも、焼いてばっかりいないで、ちゃんと自分も食べてね?遅れたけど、一応雅兄ぃの誕生日祝いなんだから』
「ありがと。でも、翔ちゃんたちが来たら、潤とかに任せるから大丈夫だよ!だから、今は遠慮せずに!ひゃひゃ」
こういう感じが雅兄ぃらしくて私は大好きなんだけど、でも、今はさすがに“そんなに一気に焼かれても食べれないから〜!”、と注意をさせてもらう。 だって、これからみんなと合流するにしても、まだ私と雅兄ぃの2人だけなんだから、網いっぱいにカルビを広げる必要は無いと思うのだ。
『それに、お肉ばっかりじゃなくて、私、冷麺とか食べたいな〜』
「あ、いいね。俺も食べようかな〜」
『でも、まだ翔ちゃんたちが来てないのに食べ過ぎじゃない?なんか、軽く前半戦が終了しかけてる、って感じ…』
「ほんと?俺はまだまだイケるよ?でも、杏奈がそう言うなら、ちょっとストップして、みんなのこと待とっか!」
『うん。ごめんね、雅兄ぃ』
「ううん。全然いいよ、ひゃひゃ」
それから約30分、ウーロン茶の入ったグラスやトングをいじりながら、2人で取り留めのない話をし続ける。 “さっきの店で買ったニット、絶対に雅兄ぃに似合うよ”とかいう、話題は主に、今日の戦利品についてだ。
「杏奈に今度、春コート買ってあげるからね!もうすぐ春だし、きっと可愛いよ〜!」
『ふふ!まだ冬になったばっかりだってば、雅兄ぃ!そりゃ、雅兄ぃは仕事柄、もう春物集めてるかも知れないけど』
雅兄ぃはスタイリストさんでオシャレだから、こういう話をするのが凄く楽しい。それに、モデルさんなんかよりもモデルさんみたいで、足も長くて、すっごーくカッコイイと、絶対に言わないけど思ってる。 そういう雅兄ぃを褒めることは、和兄ぃ曰く“もっと面倒なことになる”らしいから、あんまり言わないようにしているのだ。 今日だって、買い物中に店員さんにカップルと間違われて、ちょっと大変だった。雅兄ぃはどこでテンションが跳ね上がるのか分からないから、気をつけないといけない。 でも、いつだって私の味方になってくれるのも、雅兄ぃだって知ってる。だから、雅兄ぃが大好きだ。
「ごめーん、遅れた!」
『! 、翔ちゃんたち、やっと来た〜!』
「うわ…。既にすげー食べ散らかしてるし…」
「え、そう?」
「いや、あんたたち、どんだけ食ってんのよ、この時間から…」
「まだ、16時半なのに…。んふふ」
その時、ようやく待ち続けていた翔ちゃんたちが、個室の小さなドアを開けて顔を覗かせる。 でも、潤くんと和兄ぃを筆頭に、テーブルの上に空っぽになった何枚かの皿と、黒く焦げた網を見て顔を引きつらせた。
確かに、食べ始めたのは実は15時からで、智くんの言う通りまだ16時半だけど、ずっと歩き続けていてお腹が減ってしまったのだ。 だから、雅兄ぃと“もう焼肉行っちゃおう!”となり、翔ちゃんたちにも急遽、早めに焼肉パーティを始めることをメールで知らせ、今に至っていたりする。 そんなことを雅兄ぃとたどたどしく言い訳していると、翔ちゃんが早速、店員さんに網を替えてくれるよう呼び掛けた。
『? 、翔ちゃん、もしかして病院から直行?お医者さんの匂いがする』
「あ、ほんとだー」
「確かにそのまま来たけど…。つーか、いつも思うけど、お医者さんの匂いって何?」
『智くんは海の匂いがする!魚釣れた?』
「うん、真鯛が何匹か。焼肉パーティのメールが来たから、知り合いにあげちゃったけど」
「あ、そういえば和、ケーキ受け取りに行ってくれた?」
「うん。忙しい時に予約変更したわけだから、ちょっと気まずかったけど。冷蔵庫の中に入れといた」
『ふふふ。楽しみだねー、雅兄ぃ』
「ひゃひゃ。ねー!」
何度も言うように、今日は雅兄ぃの誕生日とクリスマス。ケーキは絶対に欠かせない。 でも、そう言いながら雅兄ぃも焼肉を再び食べ始めたり、私も冷麺を注文したりするので、隣に座っている和兄ぃと潤くんが、またため息を吐いた。 そんな中、同じように静かに食べ始めた智くんが、ふと思い出したように、私に声をかける。
「あ…。それに、杏奈、花火も上げなくちゃね?」
『あ、そうだね!忘れてた』
「っ、花火!?」
「んふふ…。昨日、2人で物置漁ってたら、夏にやり残したやつが見つかったの。だから」
「あぁ〜!そういえば、残してたかも!いいね、それ!俺もやりたい!打ち上げあった?」
『うん、あった!1個試してみたけど、しけってもいなかったし、絶対楽しいよ〜!』
「ま、まあ、クリスマスだし、誕生日だし…アリ…なのか?」
「いや、ディズニーランドじゃあるまいし、それってどうなの?」
「んははは!確かに。しかも、明日は普通に平日だし、夜にそんなやってたら、近所迷惑だよね、たぶん」
『いーのー!やるって決めたの!ね、智くん!』
「んふ。うん」
智くんに同意を求め、渋っている翔ちゃんたちにも、雅兄ぃと一緒にお願いをする。 なんとか3人にもオッケーを貰い喜んでいると、気になったのか、潤くんが不思議そうに首をかしげ、私と智くんに質問をしてきた。
「…つーか、なんで兄貴と杏奈は、物置なんか漁ってたの?」
『え、だってそれは潤くんのプレゼントを探すため…』
「「「「っ、杏奈!!」」」」
『あ…』
潤くん以外の大きな声が響き渡って、一瞬、個室の中が静かになる。聴こえるのは、お肉が焼ける音だけだ。 勢いでそのまま喋っちゃったけど、その4人分の声を聴いて、やっと今の状況を理解した。隣に座る和兄ぃは、小さい声で“バカ…”と肩を小突いてくる。 でも、気まずいまま、恐る恐る潤くんを見ると、今日ここに来てから何度目か分からないため息を吐かせてしまったけど、意外にもそんなに怒ってはいないようだった。
あ、あれ?
『お、怒ってないの?潤くん…』
「別に。つーか、知ってたし」
「「「え゛」」」
「あ、やっぱりバレてました?」
「バレバレ。ちょいちょい物が動いてるし、クローゼットの中の物とかが、雑に仕舞われてたりするんだもん。気付かない方がバカでしょ」
「ま、マジでか…」
「さすが、潤…」
「クリスマスだから大目に見てるけど、絶対に見つかんないんだし、もう来年からはやめてくれない?正直、俺もすげー面倒臭い」
「いやいやいや!そこはね!?だったら、望むとこっていうか!こっちだって、本気で探しますよ!ねえ、杏奈!?」
「何でテンション上がってんだよ、お前!」
「ふははは!つーか、そんなエンターテイメント性いらなくね?楽しすぎるだろ、この家!」
そう言って翔ちゃんが笑うと、和兄ぃたちも“確かに”と言って、雅兄ぃをからかい始める。 でも、私には分かっていた。
翔ちゃんも潤くんも和兄ぃも、そんな風に言うけど、いつも一緒に、全力で楽しんでくれるし、智くんはその後押しをしてくれる。 そして、良い意味で私たち全員を巻き込んでくれるのは、いつだって雅兄ぃだ。 だから、私は雅兄ぃが大好き。私だけじゃなくて、みんなが雅兄ぃが大好き。雅兄ぃと一緒にいれば、いつだって笑顔でいられれるから、凄く幸せ。
「ね、杏奈!来年も、一緒に潤のプレゼント探そうね!」
『ふふっ、うん。……でも、その前に〜…、』
「?」
だから、言わせてね。祈らせてね。これからも、ずーっと一緒に笑顔でいさせてね。 たとえ遅れてしまったとしても、雅兄ぃの誕生日は私たちにとって、クリスマスよりも、もっと大切な日なんだから。
『雅兄ぃ、誕生日おめでとう!』
今年も、クリスマスに負けない、素敵な1年になりますように。
雅兄ぃが、幸せでいられますように。
End.
→ あとがき
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