June Berry - 7/9
side. A
「雅紀。炭、もうちょっと増やしてー?」
「オッケー!」
翔ちゃんに言われて、バーベキューコンロの中に炭を入れる。 その瞬間に火は大きくなり、同時に煙が俺を襲ってきた。
「はははっ!」
「だから笑うな、っつーの!ひゃひゃ」
気付けば、もう16時半。太陽も少しずつ沈んできて、バーベキューの用意も準備し始めていたところ。 家の中では、さと兄ぃと潤がアイスコーヒーを飲みながら、オーブンを見守っている。 和のバースデーケーキ用のスポンジの焼き上がりまで、あと少しだ。
「すっげー良い匂い!楽しみだな〜」
杏奈が思いついて、みんなで計画を練った今日の誕生日会。 和のために、ブルーベリーのショートケーキを作ろう、と言ったのは杏奈だった。
なんでも、杏奈の友達の家でブルーベリーを作っているとかで、それをデート気分で獲りに行こう!っていう計画。 聞いただけでも楽しそうだったから、本当は俺も一緒に付いて行きたかった。 でも今日は和が主役だから、徹底的に裏方になるんだ、って全員で決めたのだ。
「おおー。超キレイに焼き上がった!さすが、兄貴」
「んふふふ。一応パン焼いてるしね。毎朝」
その声に、翔ちゃんと一緒にキッチンまで行くと、見なくても分かるくらい、甘い香りが立ち込めている。 しばらくすると、さと兄ぃが慎重にオーブンからケーキのスポンジを取り出した。
「おお〜!!超うまそう!超ふわふわ!触っていい?」
「おい!ダメに決まってんだろ!」
「はは。雅紀、ちょっとさっきからテンション上がり気味なんだよ。すげーうるせーの!」
「んふふ…。あとは冷めたら切って…。和と杏奈が帰ってくるの待つだけか」
そして、みんなで同時に時計を見る。 もうそろそろ、帰ってきてもいい時間だ。
すると、人一倍心配性な潤が、カウンターに置いておるアイスコーヒーのグラスを持ちながら言う。
「…つーかさー。連絡無いけど、無事にブルーベリーは獲れたんだよね?」
「じゃない?俺も、今更買いに走るとか嫌だし、そう願いたい」
「和、絶対にがっかりしただろうなぁ…。せっかくの杏奈とのデートが…」
「うひゃひゃひゃ!いきなり山の中連れてかれて、絶対にちょっとは怒ったよね!杏奈のこと!だって、自分のケー、」
「自分のケーキ材料のために、今戻りましたけど何か?」
「「「「!!?」」」」
リビングに響いた、聞き慣れた一定のトーン。 そして、後を追うように聞こえた、無邪気な笑い声。 二つの声を辿って振り向くと、和と杏奈が立っていた。
「杏奈〜!おかえり!!」
『ただいま、雅兄ぃ!見て見て!こんなに獲れたの、ブルーベリー!!』
掲げるカゴの中には、大量のブルーベリー。 それは、微かに木々の香りもして、家に残っていた俺たち4人は、“おおー!!”と感動してしまう。
そして、同じようにカゴをキッチンカウンターに置くと、和が早々とソファに座りこんでいて、一目で疲れ果てているのがよく分かる。 でも、そんなことしている場合じゃないんだよ?
「マジで疲れた…」
――― これからが、クライマックスなんだから!
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