June Berry - 6/9


side. N



レジャーシートを広げて、兄貴が焼いたパンやサンドを食べるのは、まだいい。
でも、食べ終わった途端、カゴを持たせられるっていうのは、何なの?



「…杏奈。お前、騙しただろ?」

『騙してないよ!これも、立派なデートだよ!』

「こんな森の中で?有り得ないでしょう、それ!何すんだよ?いったい」



見渡す限りの、木、木、木。これは、完全なる森ってやつだ。絶対に。
でも、一応杏奈に従うと約束したから、その後を付いて行くけど、ますます疑問が湧いてくる。


こんな森の中で、俺に何をさせたいのか。
何の目的があって、ここに連れて来られたのか。

情けないし、珍しいことだけど、杏奈の考えていることがよく分からない。
とりあえず、あんな格好をしているのはこの森の中に入るためだったんだろう、ということは分かるけど。



『…この森ね、友達の実家で持ってるんだって』

「は?」

『凄いよね!こんな森が自分の家のものだなんて!トトロの世界だよ!』

「ごめん、杏奈。何?」



森の中をひたすら歩いていると、突然足を止めて俺に向き合う。
そして、自分も持っていたカゴを掲げながら、笑顔でこう言い放った。



『和兄ぃ、ここにあるブルーベリー、全部獲って帰ろうね!』

「はい?」



そう言うと、近くの木になっていた小さな実を手で摘む。それを軽く拭いて口に入れると、“甘ーい!”と喜んだ。
良く見ると、今いる一帯は、同じように実をつけた木々ばかりだ。


いや。そんなこと、分析している場合じゃない。



「…ちょっと待って、杏奈。もしかして、それだけのために、ここに連れて来たの?」

『? 、うん?』

「俺に、“デートだ”って言って騙して?」

『騙してないもん。ブルーベリー摘みデートだってば』

「はあ?!いや、それよりも…。…このブルーベリー、もしかしてだけど…」



なんとなくだけど、ここまでくると話のだいたいは読めていた。
読めていたけど、一応確認しとくべきだ。


まさか誕生日に。可愛い妹に。
こんな風に騙されるとは、思っていなかったけど。



『和兄ぃのケーキに使うの』

「やっぱり…」



――― 俺、自分のケーキのために、妹と買い物に来ただけじゃん。それ…。






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