June Berry - 4/9
side. N
「お前、これ絶対おかしいだろ…」
『おかしくないよ!』
「いや、おかしいでしょ。なんで俺が運転して、なんでお前が行く場所指定してんだよ!普通、こういうのって俺に決めさせてくれるんじゃないの?」
『あ、和兄ぃ。次、左ね』
「話聞けよ!」
自分の部屋から見ていたように、空は快晴。 車線は進めば進むほど一本道になっていっていて、気のせいか走る車も少ない。
「しかも、どんどん山の中に入って行っている気がするんだけど…」
2時間前、階下に下りると、当たり前だけど全員が既に起きていた。 翔ちゃんは、前日のままにしていた医学書やパソコンの片づけ。 潤くんは朝食の後片付けをしていたけど、ありがたいことに、俺の分のコーヒーは取っておいてくれていた。 兄貴は洗濯物がどうとか騒いでいて、デッキもうるさいな、と思ったら、雅紀がブラシでデッキの上を掃除している傍ら、杏奈が一緒にはしゃいでいた。
そんな、余りにも休日を満喫している兄妹の様子が、俺にとっては妙に違和感だった。 朝から全力で動いているのと、このプレゼントのことを考えると、何か企んでいるのかもしれない、と密かに思う。
『今日ねー、みんなでバーベキューしよう、って言ってたよ!潤くん。雅兄ぃも張り切って掃除してたし』
「へー」
『翔ちゃんも、それまでに出来る限り仕事終わらせよう、って頑張ってたしね。きっと、仕事持ち帰ってでも和兄ぃの誕生日祝ってあげたかったんだよ!』
「うん。それはありがたいんだけどさ。…杏奈、お前、これどこに行こうとしてんの?」
車を走らせれば走らせるほど、街は遠くなっていって、周りは木々が多くなる。 2時間近く走らせていることを考えれば当然と言えば当然だけど、行き先が分からないのは結構不安だ。
しかも……、
「それに、なんでお前は着替えてないの?俺がせっかくアドバイスしてやったのに」
『あれ、アドバイスって言うんじゃなくて、悪口って言うんだよ。和兄ぃ』
普段から俺と言い合いすることが多いせいか、杏奈は口ばかりが達者になっていく。 基本は口答えすることなんて無いけど、時々調子に乗るから危ない、と思っていることの一つでもある。実は。 なので、俺が素直に“悪かったって”と言うと、尖らせてた唇は笑顔に変わった。
『ふふ…。でも、どっちにしろ、今日はこの格好の方が都合が良いの』
「は?なんで?一応、デートなんだろ」
『着いてからのお楽しみなの!』
その言葉に、また若干の不安を覚えつつも、車を走らせる。 俺が笑いながら“生意気”と言うと、“今日ぐらいは私の言うこと聞いてね”と笑顔で返された。
「んふふ…。ま、いいけどさ」
窓を下げると、緑の風。 カーステレオからは、杏奈の好きな曲が流れた。
『“I’m gonna soak up the sun〜!”』
随分と、ご機嫌なもんだ。
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