June Berry - 3/9


side. N



朝の光が顔を射す。しかも、カーテンの隙間から、とかじゃなくて、完全に直で浴びている感じ。
昨日の夜、確かにカーテンでシャットダウンしたはずなのに、燦燦たる陽光が視界に入るのは、きっと部屋中に響く、この声の持ち主が原因だ。



『起きて!和兄ぃ!!』

「…うるさい、杏奈。何なんだよー、いったい…」



重い瞼を開ければ、満面の笑顔を浮かべた妹。
ベッドに乗ってまで体を揺するから、嫌でも目が覚める。
体を起こせば、3日前まで続いていた舞台の疲労は、完璧に消えているのが分かった。


ケータイを開いて時間を確認すれば、朝の9時。
今日が日曜だと考えると、もうちょっと寝ててもいいだろ、と思う。



『やっと起きた!』

「やっと起きた、じゃないよ…。なんなの、もう。まだ9時じゃん」

『“もう9時”だよ。今日、和兄ぃの誕生日なのに、主役がずっと寝てたら意味無いの!』

「…“今日”?」



俺のベッドの上でぺたんと座る杏奈を、寝ぼけ眼のまま、思わず見据える。
そして、もう一度ケータイを開き、今度は日にちを確認した。



「…誕生日はもう過ぎたはずですけど。ほら」

『そんなの知ってるってば!でも、当日は出来なかったでしょ?今日なら全員揃ってるから、今日やろうって。…この前話したの忘れたの?』

「そうだっけ?…でも、どっちにしろ1日かけて祝うわけじゃないんだから、別にいいでしょ、寝てても」

『ダメ。だって、少なくとも私のプレゼントは1日かけて祝うものだもん』



言いながら、ベッドからぴょんと飛び降りる。
インディゴブルーのデニムのサロペットに、淡いボーダーのトップスが朝の光に揺れた。


確かに誕生日当日は俺も舞台があったし、全員が揃わなかったのは覚えている。
それに、その日の夜はやたらテンションの高い雅紀とそーめんを啜ったことも。
ただでさえ疲れていたのに、潤くんたちがいなかったら、その疲労感は半端なかっただろうな、と思う。


そして、今伝えられた情報だ。


“全員が揃う、遅れた誕生日”
“妹、杏奈の誕生日プレゼント”


ほんのちょこっと、興味がそそられる。



「…因みにそのプレゼントって何?まさか、1日デートする、とかじゃないよね?」

『へえっ?』

「…図星かよー!なんだよ、そのプレゼントー」

『だ、だって雅兄ぃが、絶対喜ぶ!って言うんだもん!ねー、だから行こうよ?!和兄ぃー!!』



そう言って、また体を横にしそうになった俺に気付き、腕を無理矢理引っ張る。
今の一言を聞く限り、そのプレゼント自体が、兄妹全員からのプレゼントなんだと思う。
どんだけ妹のこと愛してんだよ、と言いたくなるけど、俺もそっち側の立場だったら、そう提案していたかもしれないことを考えると、何も言えなくなった。



「…その格好で行くの?」

『? 、うん。なんで?』



ベッドから降りて着替えをするために、後ろから杏奈の背中を押して、部屋から出す。
質問の意味が分からないなりにも、俺がきちんと起きたことに安心したのか、本人も足を進ませて。


そして、ドアを閉めながら言ってやった。わざとだけど。



「はぁ…。お兄ちゃん、もっと女の子らしい服着て欲しかったなー!」

『?! 、うるさーい!和兄ぃのバカ!』



――― こんなプレゼント、詐欺な気もするけど、とりあえず乗っかってやりますか。






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