June Berry - 2/9


side. M



『…なんか、寂しいね』

「「…!…」」



最初に沈黙を破ったのは、隣に座る妹の杏奈だった。
その言葉に、兄貴も俺も反応して、箸が止まってしまう。
思わず、3人で顔を見合わせた。



『今日、和兄ぃの誕生日なのに…』



そう、木曜日の6月17日。今日は我が家の四男である、和の誕生日だ。
それなのに、夕食時である今、ダイニング・テーブルに着くのは兄貴と俺と杏奈だけ。



「…まあ、みんな仕事あるしな。仕方ない!」



空席の多い食卓。
そんな様子を見ながら、兄貴がつまらなさそうな妹に言い聞かせるように言う。



「だって、翔くんは夜勤だし…」

『医者不足…』

「雅紀は“今日仕事が夜までだったー!”って、なっちゃったし…」

『スケージュール管理不足…』

「和本人は、今頃、舞台本番中だし…」

『…照れ隠し?』

「いや。それは違うと思うぞ…」

「んふふ…。でも、まさか3人しか残らないとは思わなかったな〜」



翔くんは1カ月前から、この日は夜勤だということは知っていた。
けど、雅兄ぃの仕事の変更と、何より当人である和がいないのは予想外で。
たった3人でいないヤツの誕生日を祝う気にもなれなくて、この状態だ。

すると、テーブルに並んだ料理を見ながら、杏奈が言う。



『だよね…。そのせいか、潤くんの料理も若干手抜きっぽいし…』

「おい!」

「んふふふ…。そーめんにサラダだもんなぁ」



確かにやる気が無くなって、面倒でそーめんにしたけど、普通、作ってもらっておいて言うか?そういうこと!
一応、ちゃんと薬味は切って用意してやっただろーが!
信じらんねー。この2人…。


俺がそんな風に文句を言うと、慌てたように“ごめんなさい!”と杏奈が謝る。
そして兄貴が、いつものように笑いながらそーめんを啜った。
“俺は好きだけどね、そーめん”なんて言いながら。



「ったく…」



数は半分になっても、調子は崩さない2人に、ため息を吐きつつもホッとする。
特に杏奈は雅兄ぃと同じで、こういうイベントものが好きだから、予定通りに進まないといじけ始めたりするので余計に。
でも、今はその雅兄ぃがいないことが、逆に功を奏したらしい。
おそらく2人揃っていたら、もっと収集が付かなくなっていたはずだ。



『…ねえ、じゃあさ?いつやるの?和兄ぃの誕生日は?』

「うーん…。土日も翔くんは仕事だし、和も引き続き舞台があるからな…。もしかしたら、平日になるんじゃない?全員が揃うのは」

『そっかぁー…』



それぞれの予定が書き込まれたカレンダーを見ると、全員がこの夕食時に揃えるのは、だいぶ後のことのようだった。
もしかしたら、ここまで遅れるのは初めてかもしれないな、とふと思う。
なかなか上手く行かない誕生日に、思わずまた、3人の口からため息が漏れた。



「…和、帰ってきたら、雅紀と一緒にこのそーめん食べんだろーなぁ…」

『気の毒…』

「おい…」






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