仲良し兄妹


お兄ちゃんと2人暮らしをしている、2LDKのマンション。
雨は未だにザーザーと降り続け、一時はどうなることかと思ったけれど、夕食を食べに櫻井さんと居酒屋に寄り道したおかげで、難なくここに帰って来ることが出来た。
というのも、帰る時に相葉さんが、櫻井さんにビニール傘を貸してくれたからだ。


気持ちの良い接客をしてもらい、美味しい夕飯を食べ(時間を見るとカロリーが気になるところだけど)、心は大満足。
でも、今夜はそれだけじゃない。とても素敵なプレゼントがあったのだ。



『ん…?電話?』



考えるだけで笑顔になっちゃう自分に呆れつつ、玄関を開けて入った瞬間に鳴ったケータイを、カバンからゴソゴソ漁る。
発信者の名前を確認すると、そこには正に今、考えていた人の名前が表示されていた。メールじゃなくて電話だなんて、珍しい。



『お兄ちゃん?』

≪お!杏奈、メール見たぞ!すげーな〜。どーしたんだよ、あのチケット。売り切れちゃった、って言ってなかった?≫

『ふふ。も〜、また件名と写真しか見ないで、本文読んでないんでしょ、お兄ちゃん!櫻井さんっていう、会社の上司から頂いたの。それこそ、本当にさっき…お兄ちゃんにメールした時にね』



そう。今日の一番素敵なことは、行きたかった美術展のチケット2枚のことで、それを櫻井さんが譲ってくれたことだった。
正直、櫻井さんが胸ポケットからチケットを出した時は、え〜!?なんで!?私も欲しかったのに〜!と、ほんの少し嫉妬してしまったのだけど。
でも、こうやって手に入れた今は、櫻井さんの厚意に感謝でいっぱいだった。私がこういうのが好きだ、って櫻井さんに言ってくれたニノにも、改めてお礼を言わなければ。


そんなことを考えていると、お兄ちゃんが不思議そうに、こう訊く。
夜釣りでもしているのか、受話器越しに波の音が聴こえた。



≪あ、そうだったんだ。でも…≫

『ん?』

≪こんな夜遅くまで、その上司の人と一緒に居たの?ニノとか、マツジュンとかとじゃなくて?≫

『!』

≪ダメだよ…、危ないじゃん。男なんて、裏では何考えてんのか分かんないんだからさ…≫

『ふふっ、お兄ちゃんみたくね?』

≪っ、…杏奈、俺、真面目に話してるんだよ?ちゃんと気をつけなくちゃダメだよ。特に今は、俺は家に居ないんだからさ…≫

『お兄ちゃん…』



本当に心配している様子のお兄ちゃんの声に、ソファに座って話をしていた私は、思わず側にあったクッションをギュッと抱き締める。
そして、もう一つのクッションを枕にして、そのまま寝転がった。いつもは、この隣にはお兄ちゃんが一緒に座っているのになぁー、なんて思いながら。



『そんなこと言うんだったら、早く帰って来てくれればいいのに。映画の約束だって、お兄ちゃん忘れてたし…』

≪それは…ごめんね?でも、本当に心配だからさ…≫

『ふふっ!…うん、分かってる。私も心配させてごめんね?でも、その櫻井さんっていう人は、お兄ちゃんが心配するような人じゃないよ』

≪そうなの?≫

『うん。ほら、お兄ちゃんが送ってくれたブリあるでしょ?あれ、おにぎりにしてお昼に持って行ったんだけど、櫻井さんも食べてくれて。美味しいって、凄い喜んでくれたんだから!』

≪おお、じゃあ良い人だな。あのブリの旨さが分かる人に、悪い人はいないもん。んふ≫

『ね?ふふ…』



すると、調子が上がってきたのか、釣りの方にヒットが無くて暇なのか、お兄ちゃんが詳しく宮崎や、今居る山形であったことを話してくれる。
こっちの方が水や空気はもちろん、星も綺麗だ、とか。山形でまた美味しいものを見つけて送ったけど、ちゃんと届いてる?とか。
そーいえば昨日、また真空パックに入れられたお肉が送られてきたっけ、と私も思い出し、ブリにも飽きてきたし、明日はそれをおにぎりにして持っていこう、と考える。



≪んふ、でね?≫

『ふふ、うん?』



相変わらず受話器越しのBGMは、規則的に波打つ夜の海の音で、お兄ちゃんはとても楽しそう。
それだけで私も、仕事の疲れは吹っ飛ぶし、明日も頑張ろうって思える。でも……、



『…ねー、お兄ちゃん?』

≪ん?どした?≫

『早く帰って来てね?』

≪…!…≫

『一応言っておくけど、私だって真面目な話。…なんだから』

≪んふっ。…うん、分かってる。すぐ帰るよ≫



そう言った後、もう寝な?明日も早いんでしょ?と促され、30分ほど楽しんだ会話を終わらせる。
しばらくお兄ちゃんとの電話を思い出し、1人で笑いながら、明日の朝ご飯と、お弁当の為の準備をキッチンでした。
明日はさっき立てた計画通りに、おにぎりはお兄ちゃんが送ってくれた、山形の牛すき煮!
でも、ダンボール箱に入れたままにしておいた真空パックを取り出して、初めて底にあったお兄ちゃんの手紙に気付いた。


書いてあるほとんどは、さっき話したことばかり。でも、この最後の一文に関しては、さっきの会話では無かったはず。
思わず、手紙に向かって大声で叫んだ。


もう!なんなの、これ!



【次は鹿児島だ!待ってろ、桜島!】

『っ、…お兄ちゃんの嘘吐きぃ〜!』



でも、待ってる。
待ってるから、出来る限り、早く帰って来てね。


私だって、寂しいんだから。





End.





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