幻の映画デート
side. N
週末明けの月曜日。 仕事が終わると会社の1階ロビーで杏奈を待ち、そのまま相葉さんの店に直行するという流れは、確認し合わなくても分かっていた。 他に行くとこ無いのかよ!と自分にもツッコミを入れたくなるけど、そう思いつつもここに通ってしまうのは、やっぱりこの人の恋も気になっているからで。 人のことを何だかんだ言っているけれど、大概俺もお人好しだ。
「そ、そーいえば杏奈ちゃん?この前言ってた映画って…どーしたの?お兄さんから連絡来たの?」
注文をしてしばらく経つと、相葉さんが杏奈にそう尋ねる。 ここに来てから、ずっと挙動不審というか、いつも以上に杏奈のことを気にしているなーとは思っていたけれど、それを聴いて、なるほどね、と思う。 でも、相葉さんの実は繊細な性格や、自分が想いを寄せられているなんていう事実に、いくら待っても気付きそうにない杏奈は、順調にしれっと爆弾を投げてばかりだった。 こうなってくると、もはやわざとやっているんじゃないか、と疑いたくなるレベルだ。
『ああ〜。結局前日になっても電話もメールも来ないから、親友に頼んで一緒に行ってもらいました』
「え!?」
「親友って…まさか、潤くんのこと?」
『うん。ニノは会ったことあるもんねー!結構急だったんだけど、ちょうど潤も予定空いてたみたいで。だから、付き合ってもらった。あれー?相葉さんは会ったことありませんでしたっけ?』
「いや…。ある、けど…」
杏奈が残酷なぐらいの笑顔でそう訊くと、相葉さんは引きつったように笑い返す。 最初は面白がっていた俺だけど、ここまで杏奈が天然ぶりを発揮していると、相葉さんだけじゃなく、誰に対しても気の毒になってくるのは当然だ。
つーか、潤くんは予定が空いてたわけじゃなくて、絶対にお前の誘いを優先したんでしょーよ! 相葉さんも、なんで杏奈が映画に付き合ってくれる相手を探してるって分かった時点で、さっさと行動しないかなー? そんなんだから、いつまで経っても杏奈に意識されないし、挙句、こんな風に言われるようになっちゃうんだよ。ったく…。
『映画もね、恋愛ものだったんだけど、すっごい素敵だったんだ〜!ニノも相葉さんも、誰か女の子誘って行ってみれば?絶対ロマンティックだと思う!』
「っ、…!?」
「お前、ほんっと悪魔な…」
『んー?何か言った、ニノ?』
「別に…」
そう言って、あからさまに傷心の表情を浮かべる相葉さんを肴に、ビールを一口飲む。
ってか、恋愛ものを兄妹で観に行こうとしてたって、マジでどんだけ天然なんだよ。
End.
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