約束忘れてるの?


side. A



平日の夜、いつもの店内。
でも、カウンター席で座る杏奈ちゃんはいつもとは違く、店に来てからずっと、大好きなお酒を飲むことも無くケータイを睨み続けていた。
そーいう不機嫌そうな顔も確かに可愛いし好きだけど、俺としては、やっぱり笑っている杏奈ちゃんを見ていたいんだけどなー、なんて。



『むぅー…』

「杏奈ちゃん?さっきからケータイ見てるけど、どーかしたの?せっかく小春ちゃんが作ってくれたんだから、冷めない内にからあげ食べた方がいいよ?」



なんでケータイを見ているのか、実はすげー気になっていることをおくびにも出さず、さり気なく、そう尋ねてみる。
相変わらず杏奈ちゃんは画面を見つめたままで、いやいや!少しは俺のことも見てよ!?と不安になったけど、返ってきた言葉にはほっとした。
つっても、杏奈ちゃん的には、やっぱり面白いことではないみたいだけど。



『お兄ちゃんが…』

「お兄ちゃん?」

『1週間前に釣りに行ったまま、連絡もしてこない…』

「へえっ?行方不明!?」

『それは無いと思う。連絡するの忘れちゃうのは、しょっちゅうあるから、お兄ちゃん』

「そ、そうなの?」

『でも、今週は一緒に映画観に行こうって約束してたのにぃ〜!もう!どーすんの、この買ったチケット!』



杏奈ちゃんがカウンターに頭を乗せ、それでも恨めしそうに、お兄さんから連絡を来るのを待つ。
それを見て、本当に仲の良い兄妹なんだな〜と、お兄さんを羨ましく思いつつ、俺はどーしよーもないことを考えた。
きっと、ニノが知ったら、うじうじしてないでしっかりしなさいよ!とか何とか、また言われるだろーな、と思う。



「映画……」

『お兄ちゃんのバカ〜!』



それ、俺が一緒に行っちゃ…ダメ、だよね…?





End.





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