店長の粋なお節介


side. A



自慢のモツ煮が出来上がったのを確認した直後、小春ちゃんの方を見てビックリした。
いや!なんかさっきから、やけに焦げ臭い匂いはしてるなーとは思っていたけどさ!



「ちょっ!?小春ちゃん!?からあげ焦げてるよ!?」

『はい……って、…え!?』

「ああ!いきなり離したら危な…!」

『キャっ…!っ、熱ぅ〜…!』



フライヤーの中には、見るも無残な真っ黒なからあげ。それに驚いた俺の声に小春ちゃんも驚き、網杓子を勢いよく油の中に落としてしまう。
働き始めてから失敗なんてしたこと無かったのに、今更になって小春ちゃんがこんなことになっているのは、きっと俺だけじゃなく、他のお客さんだって見ていたら驚いたに違いない。


…ってか、今はそんなことより!



「火傷してない!?」

『すみません!すぐにやり直しますね!』

「何言ってんの!ほら、ダメじゃん!ここ赤くなってるよ!?すぐに冷やさなきゃ!」



小春ちゃんの腕を掴み、急いで厨房の水道水に火傷した部分を当てる。
ちゃんと冷やして!と注意しながら、俺は俺で製氷機から氷を取り出し、更に冷やす為の準備をした。でも、相変わらず本人は火傷を軽視するようなことばっかりを言う。



『相葉さん、こんなの大丈夫ですよ。それよりも、すみませんでした。これ、作り直しますから』

「そんなの気にしなくていいよ!俺も時々やっちゃうけど、火傷ってバカに出来ないんだよ?ほら、これでしっかり冷やさなきゃ!」



そう言ってビニール袋に入れた氷を渡してあげると、おずおずと、火傷した部分を小春ちゃんが冷やし始める。
見た感じはまだ平気そうだけど、火傷は時間が経つにつれジワジワと痛みがくるもの。女の子だから、後々痕が残るようになれば、もっと良くない。
でも、小春ちゃん自身は、今やってしまったばかりの火傷のことよりも、気になって仕方のないことがあるようだった。



「でもさ〜…。なんかあった?小春ちゃんがこんなミスするの、珍しいよね?」

『え…、そんなこと…!』

「もしかして…もしかしてだけどね!?……ニノのことで、悩んじゃってたり…するのかなー?って…」

『っ、!…』

「もう、やっぱり〜!気にしなくていいのに、あんなこと〜!」



恐る恐る尋ねてみると、案の定な小春ちゃんの反応。
実は今日は、つい先日ニノから予約を受けた、杏奈ちゃんの上司の歓迎会をやる日で、その準備をしているところだったんだけど…。


“いい加減小春ちゃんの想いを汲んで、少しぐらいなんかしてよ!”


俺がそう助言をすると、ニノは何やかんや言いつつ、珍しく素直に自分の電話番号を小春ちゃんに教えてあげた。
小春ちゃんも、メールならともかく…いきなり電話番号ってハードル高すぎる!と言いながらも、それはそれは凄ーく嬉しそうで!
なのに、敵は一枚上手だったっていうか、やっぱり捻くれてるっていうか…。
思い切って電話をしてみたところ、オペレーターが“その電話番号は現在使われておりません”、とのたまったらしい。



『そ、そんなこと関係ありません!ってか、早くからあげ作らないと!19時の予約ですよね、確か…っ、』

「ダメだってば!続きは俺がなんとかやっとくから、小春ちゃんはまずは病院!女の子は肌は大事にしなきゃ。ね?」



気丈に振舞い、再び仕事に戻ろうとする小春ちゃんを止め、俺は病院に行くよう勧める。
最初は遠慮していたものの、俺が無視して近くの総合病院を紹介すると、ようやく諦めたのか笑顔で返した。



『相葉さん…。分かりました。申し訳ないですけど、お言葉に甘えて、病院に行ってきます』

「うん!でも、無理はしなくていいからね?ダメだったら連絡してくれれば、今日はお休みでもいいから」

『はい、ありがとうございます。でも……、』

「?」

『ふふっ。…今日はちゃんと戻ってきますよ。せっかく二宮さんと会えるチャンスなんだし』

「!」

『じゃあ、行ってきます!』



恋する女の子は綺麗。それに、凄く強い。
相変わらずニノに翻弄されながらも、小春ちゃんはめげずに喰らいつき、一生懸命だ。
でも、笑ってはいるけど、火傷のこともあるせいか、やっぱりいつもより元気が無い気がした。



「〜っ、ってか!そもそも小春ちゃんもニノもおかしいよ!なんなの駆け引きって!?恋愛って…こう!もっとキュンってなって、ガーっと突っ走って…!そーいうもんじゃないの!?もぉ〜っ!」



小春ちゃんが出て行ってから、黙々と慣れないからあげを作りを続けていたけど、やっぱりすっきりしなくて、ついには1人で大きな声を出してしまう。
こーなったら、もう俺がなんとかしてあげるしかない!そう思って、カウンターに置いておいた自分のケータイを勢いよく取った。



「もぉ〜、素直じゃないんだから!」



もしかしたら、後々ニノにお節介と言われるかも知れないけど、2人が意識し合っているのは確かなんだから、そんなこと言われても俺は気にしない!
寧ろ、一肌脱いだ俺に感謝しろって、その時は言い返してやる!



【大変!大変!小春ちゃんが大火傷しちゃって、今病院に行った!俺は店抜けられないから、ニノ代わりに行ってやってよ!】



大丈夫。

ニノはクールぶってるだけで、本当は優しいヤツだってこと、俺はちゃんと知ってるもんね!





End.





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