電話番号の真実
side. N
会議室で次のミーティングの準備をしていると、突然乱暴にドアが開き、一瞬何が起こったのかと疑った。 でも、すぐに杏奈が顔を出したのを見て、無意識に時計を確認する。まだ、昼飯の時間じゃ無かったはずだけど、何やってんの、この子?
『ねえ、ニノ!小春さんから電話来た!?』
「…なんで、お前が番号教えたこと知ってんのよ?」
『相葉さんから聴いた!』
「はぁ…。あの、バカ店長…」
わざとらしくため息を吐くけど、そんなのお構いなしとばかりに、杏奈は期待を込めた瞳で俺を見る。 自分の恋愛に関してはとことん鈍く、とことん天然さを発揮するくせに、他人のこととなると、何でこんなに見えるようになるのかなぁ…。それ、もうちょっと自分の為には使えないんだろーか。
『ねえ!で、連絡来たの!?』
「来てないよ。来るはずないでしょ」
『? 、なんで?』
「わざと番号の下4ケタを書き換えたから?」
そう。この前、予約表の紙と一緒に渡した俺のケータイ番号は、俺のと似ているけど、俺の番号とは違う。 書き始めた瞬間は、翔さんや相葉さんみたいに甘酸っぱい恋の真似ごとをしてやろうと思ったんだけど、結局途中から、らしくねーか…と思い直した。 でも、やっぱりそんな俺の面倒臭い恋愛観は理解出来ないらしく、さっきまでキラキラしていた杏奈の瞳は、徐々に尖っていく。
『はーっ!?何それ!意味分かんない!なんで、そんなこと…!』
「しいて言うならば、これも焦らし作戦ってことだよね」
『な…っ!?ふざけんなっつーの!女心を弄ぶなーっ!ニノのバカ!!』
「ちょ…耳元で大声出すなよな!?てか、一番人の心を弄んでる、お前がそれ言う?普通!」
『はあ!?私がいつ、ニノのこと弄んだっていうのよー!?』
「俺じゃねーよ、バカ!っ、…ああもう、ほんとにやだ…!」
そう言って呆れて頭を抱えるけど、同時に気付いた。 翔さんや相葉さんの恋愛が、ついつい甘酸っぱい方向に行ってしまうのは、たぶん相手が杏奈だからだ。
『聴いてるの、ニノ!』
「もういいから、お前仕事戻れよ!」
この子、こんな天然やってて、これから先大丈夫なんだろーか。
正直、俺でも手に負えなくなってきてるんですけど。
End.
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