私のヒーロー - 6/10
今朝、いつも通りに学校に登校して、いつも通りに1日を過ごすはずだった。でも、私の下駄箱はいつも通りではなかったようで、それを見た瞬間、最悪だ、と思った。 早い時間に登校してきたはずなのに、気が付けばこの場所に残っているのは私だけ。困っていても、誰もが知らんぷり。 生憎、いざ助けを求めようと覚悟した時に限って、翔は生徒会の用で私よりも早く登校しており、掴まえることは出来なかった。
いくら探しても、靴が見当たらない。
『大野……』
「どうしたの、夕城さん…。なんかあったの?」
『…靴、…隠されちゃった、みたいで……』
あっと言う間に時間は過ぎて、靴を見つけることも出来ないまま、SHRが始まる予鈴が響き渡る。 どうしようもない状況に涙が流れる中、唯一声をかけてくれた人は、いつも通り遅れて登校してきた、大野智だった。 でも、その表情は私の知っている大野の表情ではなく、瞳は怖いぐらいに真剣で、質問にもやっとのことで返していた。
「そっか…。分かった!ちょっと待ってて?」
『え…』
すると、大野は近くの下駄箱から自分の靴を取り出して、私にその靴を差し出した。 どうすればいいのか分からなくて大野に視線をやると、ほんの少し、躊躇うように私を見つめ返す。
「これ…、とりあえず俺のだけど、今日の内は……いや!夕城さんの靴が見付かるまでは、これ履いてて?」
『え…。で、でも…』
「っ、大丈夫!俺が絶対に見つけるから!」
『……』
「…俺のなんて嫌かも知れないけど、でも、遅刻したりするよりは良いと思う。そういうの、夕城さんには似合わないし…。だから、…だからさ?」
そう言って、大野の手が静かに私の頬に触れ、涙を拭いた。 細い綺麗な指は、いつも隣の席から見ているはずだったのに、初めて見たような気がした。
「もう、泣かないで?」
それでも涙が止まらないのは、嫌がらせのせいじゃない。
大野の言葉と、温かい手の温度が、余りにも優しかったせいだ。
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