始まりを告げる君の声 - 7/8


side. A



「よし、正解!座っていいぞー、相葉」

「は、はい…」



先生の笑顔に、クラスメイトのからかうような声。前を見つめたまま静かに腰を下ろすけど、誰も今起きた奇跡のような出来事に気付いていないのが、なんだか不思議だった。
そして、授業がまた再開されたのを確認して、夕城さんに声をかける。


他のみんなに、気付かれないように。そっと。



「あ、…ありがとね?!教えてくれて…」

『………』

「俺、英語は苦手で…」

『………』

「つーか、ほぼ全部苦手なんだけどね?ひゃひゃ」



いつもだったら、そのままスルーされて、一方的になってしまう会話。
でも、夕城さんは顔こそ向けないけど、瞳ではちゃんと俺を見てくれているのが分かる。
その証拠に、俺のオチをつけるような発言に、微かに笑ってくれたような気がした。初めて見る笑顔に、また心臓がドクンと音を立てる。


すると、今度は夕城さんから、静かに口を開いた。



『…別に』

「え?」

『…相葉がずっと答えられないでいると、教室がうるさくて仕方ないから』

「……」

『ただ、それだけ』



いつもどおりの、素っ気ない態度。そう言って顔を背けるけど、眠る様子は無い。
それに俺は、気付いちゃったの。見えちゃったの。



――― 君が、頬をほんの少し、ピンクに染めていたのが。



「ふふふふ…!」



照れ隠しの言葉も、態度も、その全部が余りにも可愛くて、嬉しくて。
リーダーの“素直じゃないけど優しいヤツ”という表現が、そのままぴったりハマっていて、思わず笑顔になった。



きっと、君は俺をちゃんと見ていてくれたんだよね?だから、困っているのにスグに気付いてくれたんだ。
そんな風に出来るのはリーダーの言うとおり、思っていたとおり、本当に夕城さんが凄く優しい子だからだよ。


それに教えてくれた言葉は、今の俺、そのもの。
君の声が、俺の恋に始まりを告げたんだ。



“とても大きな、素晴らしい贈り物をもらったような感じ”



「ありがとね、夕城さん」



ねえ、みんな。春が来たよ!





End.


→ あとがき





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