始まりを告げる君の声 - 6/8
side. A
突然、俺の頭の中に落ちてきた先生の大きな声。 隣ではニノが呆れたように呟いた声も聞こえて、何がなんだか分からないまま、とにかく勢いよく立ち上がった。
「は、はい!?」
「相葉、今の続き訳してみろ。先週の復習だぞ〜」
「せ、先週の復習…!?」
そう言われて教科書を見るけど、既に開いているページが他のみんなと明らかに違くて、それだけで焦ってしまう。 ニノが小声でページ数を教えてくれて、やっと先生の言う“先週の復習”の内容が分かった。 でも、それ以上、ニノが何か教えてくれる様子は無い。机の下に隠してあるゲームをやりながら、クスクス笑ってるだけだ。
「え、えっと…!」
『………』
黒板と教科書を照らし合わせて、必死で文章の意味を考える。外国人の女の子のイラストと、ほんの少しの会話文。 俺の視界の隅では、このザワザワした空気に気付いたのか、夕城さんが起き上がったのが分かった。
きちんと授業を受けていれば簡単なんだろうけど、生憎、俺はずっと夕城さんと仲良くなるための作戦を練っていたから、答えられるはずがない。 っていうか、そもそも英語がすっごく苦手!1年の時は、こういう時は翔ちゃんがこっそり教えてくれてたから、それなりに余裕があったけど…。
「相葉ー?出来ないんだったら、お前だけ宿題多くするぞー?」
「ちょ、ちょっと待って、先生!?もう少し…、もう少しで分かるからっ!」
『………』
ただでさえパニクってるのに、先生の脅しのような一言に、もっとパニクってしまう。 どれだけ時間をかけても、分かるはずのない問題。 でもその瞬間に、聞こえるはずのない声が、俺の耳に届いたような気がした。
――― これって、なんて言うの?偶然?必然?それとも、奇跡?
『“I felt as if someone had given me the most enormous, beautiful present.”…、』
「…え?」
『…“とても大きな、素晴らしい贈り物をもらったような感じだった”』
「え…、…夕城さん…?」
囁くように、先生よりもよっぽど綺麗な発音の英語が聞こえてきて、ハッとする。 それは、絶対に俺の左隣から聞こえてきたもので、絶対に、さっきまで眠っていたはずの人の声。 俺が授業中にも関わらず、ずっと考えていた夕城さんの声だ。
『早く…』
「…!…」
横目で確認すると、顔色も変えずに、また静かに言う。 その時、初めて夕城さんが英文の訳を教えてくれているんだと気付いた。急いで、その言葉を先生に向かってリピートしてみる。
「えっと…、“とても大きな…”、」
『“素晴らしい贈り物を”、』
「…“素晴らしい贈り物を”、」
『“もらったような感じだった”』
「…“もらったような感じだった”、……です」
繰り返す言葉に、重なる声に、凄く温度を感じる。 それに、なんだか凄くドキドキする。
――― ヤバイ。この英文訳が、そのまま俺の想いになってるよ、今。
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