a Green Xmas. 12/24 ('10) - 2/4
side. A
ほんの少しの息遣いすらも嫌がられそうなほど、静かな空間。心理療法のコーナーを行ったり来たりしながら、何度もそれらしき本を取っては、ペラペラめくってみる。 やっぱり、俺が図書館に来るなんて、そもそもが間違いだったのかも。
「でも、やっぱり気になるんだよなぁ〜…」
なんとなく言われた言葉がここまで気になるなんて、好きな子の言葉って、本当に偉大だ。 数ヶ月前にクラブで知り合った杏奈は、今まで出会ってきた女の子と全然違う。抜群のルックスに、近づきにくいオーラ。それなのに、左右違う色をしたオッド・アイは、いつも寂しそうだった。 心の扉は少しずつ開いている気がするけど、やっぱり、どこかガラス越しで喋ってるような感覚がある。
「なんで色に例えると、俺がグリーンなんだろ…。それとも、やっぱり大した意味なんて無いのかなぁ…」
そんな杏奈が、初めて俺の手に触れて言ってくれた言葉。ずっと頭から離れなくて、とうとう図書館にまで来て、その意味をもっと大事にしたくなっちゃった。 そうすれば、もっと杏奈の心に近付けるような気がするから。
「あ…」
でも、同時に頭を過ったのは、四つ葉のクローバーを見た時の杏奈の反応。 それを思い出したのは、コーナーを間違えられたまま置かれた、【花言葉】の本を見つけたから。
そうなんだ。本当に気になってるのは色の意味なんかじゃなくて、瞳をより陰らせた、“友達”の存在。 良く分からないけど、あの瞬間に杏奈のオッド・アイが潤んだのは確かだ。ほっといたら、どこか遠くに行っちゃいそうな様子に、咄嗟に声を掛けたのを覚えてる。
けど、本当に救いたかったのは、他の誰でもない、自分の心だった。
「……っ、…」
滅多に感情を表に出さない杏奈が、あんな風に瞳を潤ませる。 そんなことをさせる“友達”が、妙に羨ましくて、俺が隣にいることを忘れられそうで、それが怖くて名前を呼んだ。 顔も知らない、男か女かも分からない相手に嫉妬しただなんて言ったら、きっと呆れられるだろうな、と思う。
そんな、若干の苦い気持ちを味わいながら、【花言葉】の本を開く。 探すのは、杏奈が口に出した、シロツメクサ。
「…!…、“約束”…?」
その言葉を知った瞬間、上手く説明は出来ないけど、男だと思った。 地震が起きてるような感覚に、本を持ったまま、静かにその場にしゃがみ込む。そして、また胸がざわざわしてくるのを感じる。
前は、こんな想いをしたことなんて無かったのに。テキトーに遊んで、声を掛けてくれる女の子と、テキトーにいちゃいちゃして。 気付いたら、名前も知らない子とベッドで眠ってた、なんてこともある。それで良かったし、それで楽しかったのに。
「杏奈…」
でも、今はもうダメ。軽々しく、“可愛い”という言葉でさえも使いたくない感じ。“好き”なんて、もってのほか。 それを伝えるべき相手は、杏奈だけだって、知っちゃったから。
杏奈が今まで、どんな生活を送って来たのかは知らない。けど、誕生日に手作りのプレゼントをするぐらい、きっと、その“友達”は大切な人なんだと思う。 そして俺は、“好き”って伝えられない今、そんな何気ないことが羨ましくて仕方ない。
――― ねえ、杏奈。12月24日の誕生日までには、せめて今よりも、心が近付けてればいいな。
誰にも負けたくないよ、俺。
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