再会 - 4/12


出発のアナウンスが船内に響く頃、私は改めて、潤の半端じゃないお金持ちぶりを実感していた。



「いい部屋だろ?気に入った?」

『ロイヤル・スイートの部屋を用意してもらって、気に入らないって言ったら、悪魔だと思うけど。…この部屋、私1人で使っていいの?』



センスの良い家具に、ジャグジー付きのバスタブ。それに、ウォークイン・クロゼット。バルコニーから見える景色は、ゆっくりだけど既に動き始めていた。
ふわふわのベッドに座ってその景色を眺めていると、潤も一緒に座る。


有り得ない広さのキャビンには、またも度肝を抜かれてしまったと言わざるを得ない。
客船ほど階級がハッキリしているものは無いと言うけれど、これほどまでとは思っていなかった。現に、私の部屋だと言われたこのキャビンの広さったら!



「もちろん。本当は一つのキャビンに定員は2名なんだけど、俺はもう2階上の部屋を取ってあるから」

『もう2階上って…ペントハウス?うーわー。自分は最上級のキャビンを取ったんだー?』

「っ、おい!普通、5千万の部屋を用意してもらって、文句言う、」

『ふふ!冗談だってば!この部屋で十分です。ありがと』



そう言ってベッドから立ち上がり、テーブルに置いてある船室案内のマップを手に取る。
ベッドでは潤が寝転びながら、なんで上から目線なんだよ…とブツブツ拗ねているのが視界に入った。


先に客船ほど階級がハッキリしているものは無いと言ったけれど、真実だと思う。
使用しているキャビンによって、利用できる施設やレストラン、立ち入れるデッキだって分けられている。特にレストランなんかはその例の最たるものだ。
ありがたいことに、私は潤のおかげで最上級クラスであるこのキャビンを与えてもらったから、ほぼ船内を自由に動くことが出来るわけだけど……、



「杏奈?」

『ん?』



気付くと潤も立ち上がり、バルコニー面の窓を開けてくれていた。微かに潮の香りが漂い、気持ちの良い風が頬を撫でる。



「俺、これから用があって自分のキャビンに戻らなくちゃいけないんだけど、杏奈はどうする?今…、3時半か。夕食までここにいる?それとも船内歩いてくる?」

『そうねー…。ここにずっといても暇だし、見て回ろっかな』

「オッケー。…じゃあ、6時半にはここに戻って来てて。で、一緒にレストラン行こ?」

『分かった』



私が頷くと、潤も満足そうに笑い、部屋を出て行こうとする。
私よりも年下だけれど、確かに潤は親友だ。今知っている人たちの中では一番信頼しているし、頼りにだってしている。
もし、潤が本当に私といることで楽しいと感じてくれているのなら、親友としてのこの関係はパーフェクトだ。ギヴ・アンド・テイクが自然に出来る関係。
ずっと華やかな生活をしてきた潤にとって、私という存在は、良い意味で最大の息抜きとなっているんだろうな、と思う。


そんなことを考えていると、潤が扉を開ける寸前で立ち止まり、もう一度振り返って声をかける。



「あ…。言い忘れてた」

『? 、何?』

「この船で長期間過ごすんだから、他の客ともコミュニケーションを取ること。…まあ、外国人も多いけど、【DeTour】のデスク様なら余裕だろ?」

『!』



その言葉に、さっきの潤を模倣するように、腕を組んでニヤリと笑って見せる。
そしてふと、もしかしたら潤も私だけの能力を頼りにしているんじゃないか、と気付いた。だとすれば、私たちは本当にパーフェクトな関係だと言える。



『もちろん。伊達に31カ国語を習得してませんことよ?』



――― これだけは、潤にだって負けないと自信がある。






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