別れた原因 - 9/11
side. O / 5 years ago
『え…』
「ごめん…」
杏奈を家まで送っていく道のり。 手を繋ぎながら“明日も天気が良さそう”とか、なんてことない話をさっきまでしていたはずなのに。
その10分後には、アパート近くの公園で、一番大好きな人の瞳を暗闇の中でも分かるぐらい震えさせている。
「…俺と、…別れて下さい」
『さと、し…』
こんなやり方、酷いのは分かってる。でも、別れを告げるのにいいタイミングなんて無いと思うから。
分かってもらえるようにベストを尽くしたつもり。もしかしたら、言葉足らずな部分もあったかも知れないけど。 杏奈に嘘を言うような男ではいたくはないから、どんなに時間が掛かったって、言葉を見つけようと思っていた。
けど。
「杏奈…」
杏奈を見ていると、心が壊れていくのが見えるようで。 嘘は言っていないかも知れないけど、同じくらい酷いことをしているんだって、嫌っていうぐらい思い知らされる。 誰かの世界を自分が壊すことになるなんて、今まで考えたこともなかった。
それから、10分?15分? どれぐらい時間が経ったのか分からないけど、瞳を震わすだけで、杏奈は何も反応を示さない。
その時間が長すぎたのかな。 ここまできて、俺は余計なことを考えちゃったんだ。
――― “行かないで”って、言って欲しい、って。
「…っ…」
自分勝手な理由で別れを告げて、自分本位すぎる考えをしてる。 でも、そう言ってさえくれれば、俺はその手を離さずに済むんだ。 だって俺は、本当に杏奈が大好きだから。
『…私、ね…?』
「…!…」
足元の地面に転がる石をじっと見ていると、ようやく杏奈が声を出す。 その声はやけにはっきりしていて、震えていたはずの瞳もしっかりしている。 俺が意味もなく、不安になるぐらいに。
凄く、真っ直ぐ。
『…使命を持ってる人って、いると思うの。絶対に…』
「え?」
『…智、ずっと言ってたでしょ?“色んな国に行って、色んな人に出会って、色んな笑顔を撮ってみたい”って…。“見た人が幸せになれるような、そういう写真を撮るんだ”って…』
「うん…」
『それが智の使命なんだって私は信じてきたし、今もそう信じてる。…だったら…、』
言葉が見つからないのは、俺も杏奈も同じ。でも、必死で伝えようとしてる。 きつく握り締められた両手も、その言葉も、全部俺のため。
――― ならば、俺は杏奈の想いに応えなきゃ。
『…頑張らなくちゃ。…智は』
「うん。…ありがとう、杏奈」
本当は、本心は違うところにあったとしても。
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