別れた原因 - 8/11


side. O / 5 years ago



クリックしてフォルダを開くと、心臓が嫌な音を立てる。
別に悪いことなんて何一つしていないのに、こうなるのは“目を背けたい”と思っている証拠。
同じ差出人に、同じ件名。内容は読まなくても分かっていた。
ここ最近は、絶対に1日に1回は同じメールが送られて来てる。



「迷惑メールみてぇだなぁ…。分かってるんだから、もう送って来なくていいのに…」



小さく呟きながら、内容を確認しないままメール画面を閉じる。
そのまま、PCのキーボードの上に頭を乗せて寝そべった。



“きっと、このまま目を閉じたら顔に痕がつくだろうなぁ”

そんなことを考えながら、本当に目を閉じると聞こえてくるのは、キッチンで杏奈が夕食の用意をしている音。美味しそうなカレーの匂いも。



「何も、先輩も俺を推薦してくれなくたっていいのに…」



そこまで口に出して、また気付く。
元々、“機会があったら”と言っていたのは自分の方だ。でも、その時はまだ杏奈と出会ってなかったから。
もっと早く出会っていれば、こんな風に想いを隠さないでいられたのに、なんて。



――― けど、それにしたって、フィールドワークのアシスタントを俺にするなんて人選ミスだ。



「…杏奈〜…」



1カ月前に送られて来た、先輩のメール。
ほんの少しスタジオで働いていた時に、良くしてもらったプロの先輩だ。
その先輩が写真集を出すことになったから、そのためのフィールドワークにお前も来い、と言ったのが全ての始まり。


軍事行動が行われている場所に行き、そこで生きる人たちの写真を撮る、というのが先輩の持つコンセプトだ。
俺自身は安全な場所でフォローしてくれればいいから、危険な目には遭わないと約束してくれていた。
ただ、そういう世界があることを俺にも感じて欲しいから連れて行きたい、とのことだった。



『? 、何?どうかした、智』



俺がなんとなく呼んだことによって、杏奈が俺のいるリビングまでやって来る。
キーボードの上で突っ伏したままの俺を見て、カフェ・エプロンで濡れた手を拭きながら不思議そうに笑った。



「んふ。…カレー、出来た?」

『何それ。手伝いもしないで!ふふ』

「…杏奈、明日も仕事だよね?」

『うん。そうだね?』

「カレー食べたら、ちゃんと送っていくから。遅くなったらごめんね?」

『ふふ。ありがと、智』



そんなやり取りをした後、杏奈がまたキッチンへと戻る。
“もうすぐ出来るから、テーブルの上、片付けておいてね”、なんて言いながら。
だから、俺もPCの電源を完全に切って、言われたとおりに片付け始める。
広げていた写真をまとめつつ、横目で杏奈を確認すると、満足そうにサラダを用意する姿が見えた。



「腹減ったぁー!杏奈〜!!」



再びベッドの上で寝そべって、そう大声をわざと上げると、杏奈の笑う声が聞こえてくる。



――― ねえ、君はもう知ってるのかな?もうすぐ、俺がその手を離さなくちゃいけないことを。






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