別れた原因 - 6/11


side. O



「あ…。自由の女神…」



リバティ島にそびえる、自由の女神像が視界に入る。
ロケーション自体はローワー・マンハッタンなのに、合衆国連邦政府の直轄区域だからNY市には所属していないんだ、と以前に翔くんが言っていた。
その辺の歴史や理由は良く分からなかったけど、“行ってみたい”と言ったら、利用客が多いと、下手すれば半日かかると聞いて諦めたのだ。
でも、こうやって夕焼けに照らされているのを見ると、あの高さからはここはどんな風に見えるんだろうな、と思う。



「やっぱり、一度は行ってみてぇーなぁ〜…」



そう呟きながら、シャッターを切る。
高いビルの隙間、3年前も同じように見上げていたこのエリアは、俺にとって特別な場所だ。


ローワー・マンハッタンは、金融や証券会社のビルが立ち並ぶ、いわゆるビジネス街。
観光スポットも意外に多いけど、他のエリアに比べれば大したことはない。
女の子がショッピング目的でNYに旅行しに来るとしたら、絶対に意味を成さない場所だろうな、と思う。
この時間になっても、歩く人たちのスピードは変わらないし、人も街も忙しい。


でも、俺にとってはここが一番NYを感じられる場所。



「…? 、アリシア・キーズ?」



カッコいいスーツに身を包ませた女性2人が、近くのカフェから出て来る。
店内から洩れてきたBGMは、ここに着くまでも至る所で聴こえて来た、アリシア・キーズの曲だ。



“全ては見た目通りではないけど、私にはポケットいっぱいの夢がある”

“夢が生まれるコンクリート・ジャングル、出来ないことは何もない”

“あなたは今、NYにいるの”



元はJay-Zの曲にフィーチャーされていた曲だけど、それも含め、発表されてからはNYを象徴する曲として聴く機会が増えた。
アリシアのヴァージョンはオリジナルのポジティヴなNY賛歌はそのままに、落ち着いたメロディだけど力強い。
今でこそ、“そうだよなぁ”と思って聴けるけど、3年前に聴いていたら、きっとこんな風に共感なんて出来なかったと思う。


あの時の俺は、どっちかって言うとノラ・ジョーンズの気分だったから。



「…“I can't remember what I planned tomorrow, …I can't remember when it's time to go.”…」



2つのNY。どちらも現実で、様々な価値観を持つ人たちが集まる街だからこそ、生まれた2曲。



「“New York City, Such a beautiful disease”…、」



交ざり合って、重なり合って、反発し合う。夢と愛に溢れた場所。
それが、このたった1フレーズに全部込められている気がして、当時は耳を離すことが出来なかったっけ。



「…“Such a beautiful, ……such a beautiful disease”…」



そのメロディを口ずさみながら、そんなことを考えながら、ひたすらに足を進めていた。
自然とパーカのポケットに入れた写真の存在を、手を入れて確認する。


何も、自由の女神が撮りたくてここまで来たわけじゃない。
ビジネス街であるこのエリアに、自分が相応しくないのも知ってる。
翔くんだったら、この街並みにもきっと似合うだろうけど。



歩けば歩くほど観光客らしき人たちが増えて来て、“そういえば、ここも観光スポットの一つになっているのか”と思う。
以前は蟻の巣のようだった跡地。
基礎工事は進められているはずなのに、ここ数年間、何も変わっていない気がした。



「…え…」



“NY、なんて美しい病気なの”



そんなフレーズが当てはまる、もう一つの場所。
3年前から、ずっとチャンスがある度に通ってきた場所。
俺にとっては、ここが一番のNYの真実だから。



「杏奈…?」



未だに添えられるたくさんの花。
各国から集められたメッセージ・ボード。
誰よりも真剣な瞳で、飾られたレリーフを見つめてる。



――― よりによってグラウンド・ゼロで。また話をすることになるなんて、全然想像してなかったな、俺。






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