別れた原因 - 2/11


side. N



相葉さんがリードを付けてアスファルトの上に立たせてやると、サブが気持ち良さそうに伸びをする。
それを見て、犬もずっと船の上にいると息苦しくなるのかな、と思った。



「うひゃひゃひゃ。やっと着いたね!NY!見て、サブ!NYだよ!!」

「相葉さん。テンション上がってるところ申し訳ないんですけど、もうちょっとボリューム下げてもらえません?すげー恥ずかしい」

「ねえ、ニノ!あれ、…あれ、あの高いビルってなんて言うんだっけ?えんぱいあ…?アリシア・キーズの曲と似たような感じの名前でさ、」

「エンパイア・ステート・ビル、な。つーかお前、話聞けよ!」



降ろしたばかりなのにまたサブを抱きあげて、その超高層ビルを指差す。
そしてそのまま、きっとこの人の頭を支配してしまったんだろう。アリシア・キーズの曲を、もろ日本語発音の英語で大きく歌い出す。



「“ベイビー・アイム・フロム・ニューヨーク!”!!」

「ごめんなさい。俺、単独で行動するわ」



――― 久しぶりの地面。最初の寄港地はNYだ。



5つの行政区から成り立つ巨大都市。
マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、ステタン島。
アメリカの場合、普通は州、郡、市、というくくり方をするけど、これらの5区はそれぞれ独自のカウンティでもある。
複雑で活気のある、世界で一番有名な都市だ。



「ちょっ、待てって!おい!」



相葉さんを置いて勝手に歩き出すと、慌てたように並んでついてくる。
相変わらずサブは抱いたままだ。



「ねえ、ねえ。ここに停泊するんだよね?確か。何日ぐらいだっけ?」

「2泊。でも、船に残るゲストがだいたいだし、俺たちのやることは変わらないでしょ。今はほとんどのゲストが遊びに出てるけど」

「ふーん…。杏奈さんも船に残るのかなー?今日、まだ会ってないけど」



なんとなく呟いた一言に、今朝会った時のことを思い出してみる。



「あー…。そういえば…」



体力維持のためのジョギングは継続されているらしく、今朝も5デッキで、同じように一緒に話をした。
記憶が確かならば、あの男前の親友がホテルを取ったから、停泊中はそっちに行くと言っていた気がする。
残念ながら、その時から遠くに見えていた自由の女神像を、キラキラした瞳で杏奈サンが捉えているのが印象的で、余り良く覚えてない。
その話を隣を歩く相葉さんに伝えると、“えー!?”という不服そうな反応が返ってきた。



「なんだ〜。じゃあしばらく会えないんだ、杏奈さんに。え〜。どこのホテルに泊まるんだろ?てか、いきなり着いて、いきなり部屋って取れるもんなの?!」

「取れるんじゃない?杏奈サンの親友、どっかの有名な御曹司らしいし。それぐらい余裕でしょ」



泊る予定だというホテルの名前は覚えていないけど、恐らくアップタウンかミッドタウン、あの辺だろう。
移動に不便はないし、何より超高級ホテルが軒並みに連なる所だ。
きっと、またデジカメとメモ帳を持って楽しそうに歩いているんだろうな、と思うと、自然と笑みが零れた。


横目で隣を確認すると、サブを撫でながら独り言を言う姿。
いつの間にか、この話題は終わっていたらしい。



「ひゃひゃ!いつ来てもテンション上がるよね、NYって!サブに何か遊び道具買ってあげたいな〜!」

「…それよりも、雌って分かるようにピンクの首輪でも買ってやれば?んふふふ」



――― とりあえず、2日後に会ったら話を聞いてみよう。また、面白い話が聞けるかもしれない。






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