“Angel of Mine” - 7/10


6 years ago.



『え?』

「だから、探しに行こう」



前回のデートとは全く違う今日の天気。空は澄み渡っていて気持ちが良い。きっと、デートには絶好の日。
なのに、約束の1時間前にアパートに迎えに来た智は、私のテンションとはちょっと違うらしい。
彼の突然放った一言に、私の頭はついていっていなかった。



「俺たちの曲。先週、映画で観たじゃん。あれ」

『う、うん…。そうだね?』

「だから、今日は1日散歩したり、CDショップ行ったりして、2人の曲探さない?」

『え……』

「杏奈も“素敵だ”って言ってたべ?」



そう言って私の手を取り、いつものようにふにゃっと笑う。
反対に、私はなんだか泣きそうになっている自分に気が付いていた。
だって、こんなことを言ってくれる彼氏が、普通いるだろうか?


なんとなく選んで、なんとなく観た映画。そして、なんとなく言った一言を、ここまで大事にしてくれる。
必死で涙を抑えながら笑う私は、まるでラストシーンでのジュリアンみたいだけど、その想いは違う。


嬉しくて、嬉しくて、仕方ない。



『ありがと。智…』

「うん。だから、早く行こう?」



――― その後は、あっと言う間だった。



本当にそのまま家を飛び出して、財布も持たずに、ただただひたすら歩いていた。

お店やカフェで流れている音楽に耳を澄ませる。
音楽が流れていない場所では、お互いの好きな曲を言い合って笑う。
CDショップの視聴機を占領して、ひとつのヘッドホンを2人で分け合う。



『これでは…、』

「ねーなぁ…。んふふふ…。ま、いーや。次!」



そんな、傍から見たら迷惑だし、くだらないことを1日かけてずっとやっていた。
でも、それが不思議に楽しくて仕方なかった。


“曲なんて見つからなくてもいい”


そう密かに思ってしまうぐらいに、心が満たされていたのだ。
でも、諦めた時に限って、永遠の宝物は見つかったりするものらしい。



『あ……』



陽はもうすっかり落ちて、辺りは真っ暗だけど明るい。
ショッピングビルの前では人も多いし、ネオンがキラキラと光っている。
待ち合わせる場所には最適な、こじゃれた広場の一角にあるスピーカー。


そこから、ジュリアンたちにも負けない、素敵な曲が流れた。



『…私、これがいい…』

「んふふ…。じゃあ、俺もこれがいい」



その一言に、思わず笑ってしまう。


だって、1日中2人で探して来たのに、“じゃあ”だなんて。
智が言うから嫌味ではないけど、他の男だったらきっと笑えない。
でも、智は他の男とは違うのだ。今まで出会った人とは、全然違う。



「だって、杏奈が好きなものは俺も好きだから。だから、これは俺たちの曲だよ」



思わず、その温かい手を握り締めた。






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