“Angel of Mine” - 5/10
「はい、杏奈。アイスティーで良かったんだよね?」
『うん。ありがとね、潤』
買ってきたドリンクを渡しながら、隣の座席に座る。 広々としたシートにはひとつずつクッションも置いてあって、思わず抱き締めて寛いでしまうけど、その前に写真を撮ってメモしたのは潤には内緒だ。 きっと、また“仕事のしすぎだ”と笑われてしまう。 上映5分前となったシアターには、意外にも人はそこまで多くない。
朝食をとった後は、予定通りにスパへ行って、ランチはレストランでパスタを食べた。 そして今はこのシアター内にいて、上映前のワクワク感を味わっている。 思っていたよりも人が少ないのは驚いたけど、逆にラッキーだ。集中して鑑賞することが出来る。 集中して観るほど、本気になる必要が無いのは分かっていたとしても。
「杏奈さ、この映画観たことあるって言ってたけど面白いの?ストーリーの大筋を読む限り、ロマンティック・ラブストーリーって感じだけど」
『うーん…。そうね。面白い、かな』
「煮え切らねーな…。何、その微妙な言い方。【DeTour】のデスクが、そんな中途半端なレビュー出していいの?」
からかうように、ニヤリと笑う。 でも、確かに潤の言うとおり。ジャンルは違うからといって、こんなレビューの仕方はエディターとしてお粗末すぎる。 だから慌てて、数少ない他の鑑賞者に聞こえないように、潤に身を寄せて、小さい声で言い直した。
『…この人数から見ても分かるでしょ?大した映画じゃない』
「ははっ。じゃあ、なんでそんな映画に文句も言わないで、観ること承諾したんだよ?言ってくれれば良かったのに」
『大した映画じゃなくても暇つぶしにはなるでしょ?』
「ひでーなぁ」
『潤だって観れば分かるわよ?それに“ロマンティック・ラブストーリー”だけど、“ロマンティック”ではないの』
「は?どういう意味?」
『静かに!始まる』
上映開始のベルに、少しずつ暗闇に染まっていく空間。 潤は何か言いたそうだったけど、観ていれば私の言葉の意味するところはきっと分かるはず。
この映画は、全く以てハッピー・エンドではない、ということに。
『………』
大筋はジュリア・ロバーツ演じるジュリアンが、元彼が結婚するというので、式を挙げてしまう前にキャメロン・ディアス演じるキムから奪い返してやろう、という内容だ。 こんな風にDVDのパッケージのように内容を説明すれば、ラストにはハッピーでロマンティックな展開が待っているはず!、と思うだろう。 だって、この映画は何度も言うけど、“ロマンティック・ラブストーリー”なはずだから。
心トキメくシーンもあるし、描写もコメディチックな部分が確かにある。 けど、ジュリアンは元彼のマイケルを取り戻すことは出来ない。
そんなのは結構すぐに分かることで、例えばキムにエレベータ内で宣戦布告されるジュリアンは、閉所恐怖症でパニックになり、それどころじゃなくなる、というシーンがある。 これは結婚という枠に収まるのを恐れてる、ジュリアンが結婚に向いていないことを表しているのだと、何かの分析本で読んだ。 ラストに用意されているのは、ビックリするほどリアルな現実だというのが、この映画の魅力なんだろう。
「…なんか、言った意味が分かったような気がする」
『ふふ…』
こっそり耳打ちしてきた潤も気付いたらしく、思わず笑ってしまう。 でも、私がこの映画をここまできちんと覚えているのは、少なからずともお気に入りの部分があるから。
その感性と魅力的な異国の文化に憧れたのは、6年前のことだ。
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