誕生日は波乱の幕開け - 6/9


「これ」



狭いカウンターの中には、大量のリキュールやスピリッツ、ウィスキーなどのボトルが、棚にズラッと並んでいる。
そこからニノが取り出したのは、2冊の雑誌。ビジネス誌と週刊誌だ。



『? 、これが何?雅紀でも載ってた?』

「ええっ!俺?!」

「バカ、違うよ。付箋貼ってあるページあるでしょ?開いてみ?」



言われたとおりに付箋が貼られているページを開くと、隣に座る雅紀も興味津津に、身を寄せるように覗き込んで来る。
最初に飛び込んできたのは、仰々しいほどの大きな見出しだ。


“最終兵器!若き才能に注目集まる”
“確かな評価と実績、今後の経営は次世代ならでは”
“世界的大企業の御曹司、生い立ちに迫る”



『これって…?』

「そいつがお前の最後の希望。……だと思うよ?」



雑誌から顔を上げ、どういうこと?と眉をしかめて見せる。ニノはさっきまでと変わらない、小悪魔のような笑顔を浮かべたままだ。
文字だけじゃなく全体を読み取ってみると、2つの誌面に共通するのは、スーツを着た1人の男性の写真。
見た顔では無いけど、ニノや雅紀達に負けていない。文句無しにカッコ良い。



「【SOAR】ってホテル知ってる?この人、そこの跡取り」

『え?』

「つまり、未来の社長ってワケ」

「本当に!?凄いね、それ。俺でも知ってるよ、そのホテル!超一流の有名ホテルじゃん!」



再び、雑誌に目を落とす。

【SOAR】は世界中に展開されているホテルで、雅紀が言う通り、超一流。宿泊値段も待遇も、他のホテルとは比べ物にならない。
リゾート風のモダンなインテリアは、カジュアル感を演出しつつも洗練されていて、女性だけじゃなく、男性にも人気。
置かれているアメニティは有名ブランド。常駐のレストランシェフは当然のことながら3ツ星で、料理の評判も良い。


正に、セレブ中のセレブしか泊れない、そんなホテル。
でもまさか、跡取りとなる息子がいたなんて知らなかった。



「なんか、ここ最近までイギリスにいて勉強してたらしい。で、ついに跡取りとなるために帰国したんだってさ」

「へえ〜、頭も良い感じなんだ?それに、なかなかイケメンじゃない?杏奈、どう思う?」

『うん。結構タイプ』



写真の中の彼は柔らかい笑顔を浮かべ、私を見ている。
余り腕の良いカメラマンじゃないせいか、スーツがどこのブランドかまでは写真じゃ読み取れないけど、着こなしは完璧だ。
瞳は大きく、茶色がかった黒髪はやりすぎてないし、好印象。


それに……、



『………』

「? 、杏奈?」



何より、唇が魅力的。キスしてみたくなる。
彼とキスをしたら、いったいどんな感じだろうか。



「あれっ?おーい、杏奈〜?」

『ニノ、…雅紀……』

「! 、何?どーしたの?」

『…私、この人と結婚する!!』

「「!!」」



2人を見据え、笑顔で宣言をする。普通だったら後れを取るのが当たり前だけど、ニノと雅紀は当たり前のように、その宣言に笑顔を返してくれた。
そして全員の手が頭上に上がり、ハイファイブをする直前、もう一度、確かめ合うように笑い合う。



「んふふふ。言うと思った」



――― ほらね?今日、あんな男と別れて来て正解だ。






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