誕生日は波乱の幕開け - 5/9


シェークされたブルーの液体がグラスに注がれ、雅紀がオーダーしたスカイダイビングが出来上がる。
全てのカクテルは、ニノの腕があって、より確実に仕上がることを、この店に訪れる人間は全員知っていた。



「ほら、どーぞ。一気に飲むなよ?度数高いんだから」

「ひゃひゃ、オッケー」

「そして、これは……」

『! 、私に?』

「んふふふ。誕生日だからね。俺からのプレゼント。今日は奢り。大事に飲みなさいよ?」



目の前に出されたのは真っ赤なグラス、コスモポリタン。私が大好きなカクテルだ。
そう言って掲げるニノが持つグラスには、オレンジのライトと同じ色のラスティー・ネールが既に用意されている。グラスに入った氷がライトに照らされ、とても綺麗だ。



『ふふ。…ありがと。嬉しい』

「ふふふ!じゃあ改めて、……杏奈、誕生日おめでとー!!」



グラスがぶつかり、音が響く。数時間前までは、一体どうなる事かと思ったけど、微かなクランベリーが口の中を潤していくのを感じると、それだけで結果オーライという気分になる。
コスモポリタンは私にとって一番ハッピーなカクテルであり、加えてそれを一流のバーテンダーが作ってくれて、大好きな親友が、私の誕生日をお祝いしてくれているのだ。


こんな誕生日も悪くない。



『あぁーあ。ニノか雅紀をターゲットに出来たら、凄く楽なのに。候補から外すには、ちょっと早すぎたかも』

「んははは。バカじゃない?」

『なんで?だって、ニノもさり気に稼いでるでしょ?普通に出会ってたら、十分に候補になり得るけど。迷うことなく狙いに行くわよ?』

「ひゃひゃ!俺は、杏奈が望むんだったら、いつでもオッケーだけどね?」



思わず零れた本音に、ニノは笑い、雅紀は可愛いことを言ってくれる。
こんなにも信頼出来て、ルックスもステータスも最高の、いい男達。2人をターゲットに出来たら、バラの花束を千切ることも無かっただろう。



「え?てか、何?もしかして、また別れちゃったの?この前のターゲットと」

『うん、数時間前にね。今頃、ディオールのスーツを慌ててクリーニングに出してる頃かも』

「あ、だから、花びらが散らかってんだ!?ひゃひゃ!また、やっちゃった?杏奈。残念だったね?」

『ふふ、いいの。どうせ、雅紀やニノほどカッコ良くなかったし』

「んふふふ。…お前、いつか刺されるんじゃないの?そんなことしてたら」



カラカラとグラスを鳴らしながら、ニノがニヤリと笑い、そう言う。


確かに今の会話を聞いただけなら、最低と思う人間は山ほどいるだろう。実際、今日のようなことは、過去に何度かあったワケだし。
でも、世の中の道理に外れるようなことは、一度もしてきたつもりは無い。私が正義だとは言わないけど、自信を持って、自分を誇ることが出来る。


だから、感謝されることはあっても、恨まれることは絶対に無い。だから、別れた後だって、楽しく会話が出来る。
これは私の、経験を積んできたからこそのテクニックだ。どんなことがあっても、小さな世界。嫌われたら、やってはいけない。



『失礼ね…。自分だって、バレたら危険極まりないことやってるくせに』

「確かに!」

「バカ言わないの。俺がバレるような、そんなヘマするワケ無いでしょーが。第一、ほとんどお前の為にやってるようなもんじゃん、杏奈」

『ふふ、感謝してる。でも、だったらいい加減、さっきの話の続きをしない?待ちくたびれちゃったんだけど』

「あー…。そういえば、そんな話ししてたな」

「え、何?何?もしかして、もう新しいターゲット決まってんの?!」



私の催促する言葉に、思い出したようにニノが腕組みをし、わざとらしく視線を宙に泳がせる。
その後、私で止めた瞳は悪戯に光り、口角はゆっくりと上がっていった。



『ふふっ。何、笑ってるの?そんなにワクワクしちゃう感じ?』

「んふふふ。まーね?これ教えたら、お前は俺に感謝するよ。最高の結婚相手を探しているお前だったら、絶対ね」



――― 根拠は無いけど、良い予感がする。何か、素敵なことが起きそうな、そんな予感が。






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