誕生日は波乱の幕開け - 4/9
突然の賑やかな声と音に、入口へ視線を合わせる。明るい茶色の髪の毛と笑顔は正に人柄そのままで、自然と笑みが零れた。 私達がいつもの定位置であるカウンターに居るのを確認すると、更に笑顔が弾け、ブーツを鳴らしてカウンターまでやって来る。 今日の服は、D&Gのグリーンのギンガムチェックのシャツと、マーク・ジェイコブスのカーディガンだ。
「お前、もう少し静かに入って来いって、いつも言ってんだろ!つーかそもそも、“お待たせ”って何なのよ」
「え?だって、連絡くれたでしょ?杏奈」
『私が?残念だけど、今日はしてないと思う。最初はここに来る予定ではなかったし』
「え〜、ほんと〜!?おっかしーなぁ…」
テンションの高さもいつも通りだけど、天然ぶりはいつも以上に発揮している彼は、相葉雅紀。私の一番の親友であり、今を時めく、大人気で大活躍中のモデルさんだ。 プライベートの今は可愛さ100パーセントの彼だけど、仕事中は色気も感じられるような正統派なイケメンで、様々な表情とスタイルで多くの人を魅せている。本人にその自覚は一切無いけど、そこがまた良い。
「ま、いっか!ひゃひゃ、テレパシーだよね、つって!」
『ふふ、以心伝心ね?』
「ねーっ!」
ニノが呆れてため息を吐くのと同時に、雅紀が私の左隣にドカッと座る。 手には幾つか紙袋を提げており、それらの荷物を邪魔にならないよう、カウンター上の少し端に置いた。
雅紀とは2年前にパーティで知り合い、その時はまだ彼はモデルを始めたばかりの、駆出し者だった。 他の出席者も、当時人気だったモデル達ばかりに気を取られていたけど、私には雅紀が一番輝いて見えたのを覚えている。絶対に彼はトップクラスのモデルになれると、見た瞬間に確信したのだ。
話すと明るく楽しい人で、黙っている時とはまた違う個性がある。それが雅紀をターゲットにしない一番の理由であって、だから私達は親友になれた。 何でも乗ってくれるし、一緒に居て楽しい。何より、私を世界で一番可愛いと言ってくれるぐらい、雅紀も従順で可愛いのだ。
「ねー、それよりさ!杏奈、今日は杏奈の誕生日でしょ!?だから俺ね、こうやって、あ!ニノ、俺、スカイダイビングね!でさ、」
「お前、話するか注文するか、はっきりさせてから喋れよ!」
『てか、またそんな度数が高いの飲んで大丈夫?知らないわよ、雅紀。そんなに強くないんだから、やめておけば?』
「え〜?大丈夫!大丈夫だから、心配しないで良いよ?ってか、それよりさ、誕・生・日!でしょ!?だから俺、プレゼント持って来たんだ〜!これ!」
『え?本当に?』
「うん!はい、どーぞ!ふふふふ!」
そう言って渡されたのは、紙袋の中の一つに入っていた、綺麗にラッピングされたプレゼント箱。 その華やかな装いに、思わず手を叩きそうになる。
『ありがとう、雅紀!早速、開けてみても良い?』
「うん、もちろん!開けてみ?開けてみ?絶対に杏奈気に入るよーっ!?」
「つーかもう、開けてんだろ」
ニノの突っ込みは無視して、ラッピングである色取り取りのリボンを解き、紙を破いていく。 すぐに姿を見せたのは、ラッピングと同じ様に美しい、鮮やかなピンクのストラップ付きのピンヒールで、正に私が求めていた誕生日プレゼントだった。
『きゃー!マノロブラニクの靴ね!素敵!』
「ふふ、良いでしょ!?今日、撮影があったんだけど、そこでスタイリストさんが用意してたやつで、まだ日本に入ってきてないんだってさ!見た瞬間、絶対に杏奈に似合う、って思ったから、無理言って買い取らせてもらったんだぁ〜!気に入った?」
『すっごく!さすが雅紀。私が大好きな物、きちんと分かってくれてる!ありがとう、大好き!』
「ひゃひゃひゃ!俺も杏奈のこと、だーいっ好きだよ!」
「ほんと、現金なヤツ…」
「いーの、ニノ!……って、あれ?なんか、花びら落ちてるけど、どーしたのコレ?」
ピンヒールをカウンターに置き、お礼に雅紀をぎゅーっと抱き締めてあげると、私の肩越しに、雅紀が床やカウンターに散りばめられているバラの花びらに気付く。 背の高い雅紀は、私が立って抱き締めても十分な高さがあり、スタイルの良さを実感した。彼もまた同じように、しっかりと私を抱き締めてくれている。
『ふふ、何かしらね?ね、ニノ』
「んふふふ。さーね?」
「へえっ?」
――― やっぱり、プレゼントはこうでなくちゃいけない。
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