誕生日は波乱の幕開け - 2/9
今日は25回目の誕生日。手の中にあるのは、綺麗にリボンでまとめられた25本のバラ。 花を贈られるのは嫌いじゃないけど、誕生日にこんな演出をするのはセンスが良いとは言えない。ベタすぎる。 花は何でもない日に贈ってこそ、価値があるものだ。
その内の1輪を無造作に掴み、花びらを千切っていくと、バラの香りがふわっと舞い上がる。 そもそも、セブンティーンって何なんだろう。選ぶ種類までセンスが無いなんて、救いようが無い。
『私1さーい、生まれたー。私2さーい、生まれたー。私3さーい、生まれたー。私4さーい、生まれ、』
「すいませーん。カウンターを散らかすのはやめてもらえません?」
無残なバラの姿に、この店のオーナーである二宮和也が注意をする。 でも、彼はバラの行く末を案じたワケではなく、ただ単に、自分の店を荒らされるのが嫌なだけだ。 目を合わせると、カウンター越しにトランプカードをいじりながら、呆れたように私を見る。
「…てゆーかさ、誕生日に何でこんな所に1人でいんの?デートじゃなかったわけ?今日」
『こんな所、って…。ニノの店でしょ』
地下にある薄暗い店内、ここ【hide-out】はバーだ。 彩るのは僅かなオレンジの光だけで、深みのある木のカウンターやテーブルは、それだけで落ち着いた空間を演出する。 そして、少し袖を捲っただけの白いシャツに、ダメージ加工されたジーンズという、らしからぬ格好だけど、正真正銘、二宮和也はこの店のオーナーであり、一流のバーテンダーだった。私は彼のことを、ニノと呼んでいる。
「いや、俺の店が“こんな所”なワケないでしょ。誕生日を迎えた女が1人でバーにいることに対しての、“こんな所”だよ。普通に哀しすぎるでしょ?しかも、まだ23時なんですけど」
そう言って、壁に掛けられた時計を見る。 確かにまだ針は23時を過ぎたばかりで、もっと言えば、【hide-out】のオープン時間は遅めの22時だったりする。
『うるさいわね!仰る通り、デートはデートだったわよ?でも、お金はあるクセに、誕生日にバラの花束だけってどう?』
「んふふ。しかも、歳の数だけ?25歳なのにセブンティーン?」
『無性に腹が立ったから、シャンパンかけて、そのまま置いて来てやったの。それだけ。ケチな男はいらないから』
にっこり笑い、簡潔に説明をする。 ニノはメチャクチャになったバラの花びらを玩び、だと思った、とばかりに大きく笑った。
「んははは!すげーヤな女。超悲惨だな、その相手の男も」
『ふふ。でも、そんなヤな女が好きなクセに』
「んふふふ。超ウゼー。てか、だったらさっさと片付けてよ、このゴミ。邪魔」
そう言って、まだ被害を逃れていたリボンが結ばれたままの残りのバラを取り、同じように花びらを千切る。 2、3輪分の大量の花びらは手から溢れ、次の瞬間にはシャワーのように、それらは私に降り注いだ。 感じるのはローズ特有の甘い香りに、シャネルのドレスをより鮮やかに魅せる、同じピンクの花びら。
そして一瞬の間の後、ニノが笑って言う。
「…誕生日、おめでとう」
『ありがとう、ニノ』
花びらはカウンターと床の上に、優雅に舞い落ちて行く。 これが、私と彼なりの、バラの有効利用らしい。
・
|