深夜の秘密会議 - 7/10


side. N



全員が再び着席する脇で、必需品であるメガネをかけ、ノートパソコンを開く。もちろん、側には既に用意しておいたラスティー・ネール。
目の前に座る杏奈は、たった今、潤くんにやり込められたせいで不満気だけど、気にしている暇は無い。



「…じゃ、潤くんとの協定も結んだところで、計画の話し合いに移りますか。杏奈、拗ねてないで話聞けよ?」

『っ、分かってる!』

「ひゃひゃ!」



パソコンを全員が見られるようにカウンターに置き、数日前に杏奈と相葉さんにも見せた、ターゲットのスケジュールを表示する。
今夜の予定、“ご友人との食事の約束”は既に完了のチェックが付けられており、明日からのスケジュールは、相変わらず秒刻みの忙しさだ。



「まさか、これもハッキングしたわけ?翔くんのところの高セキュリティーを突破してるぐらいだから、俺んとこのなんか、さぞ余裕だったんだろーね?」

「んふふ。さっき言ったでしょ?こんなの楽勝なの。俺ぐらいのハッカーになると、ね」

「はぁ…」



潤くんがため息を吐くけど、それはハッキングする者にとっては称賛でもある。
けど、本当の称賛は、これから話す作戦と計画。そして、一応バーテンダーらしく、作る酒の出来栄えで判断して頂くことにしますか。


更に画面をスクロールさせ、他同様、びっしり仕事の予定で埋め込まれている2週間後のスケジュールを指差した。



「…ここ、この日。ターゲットのスケジュールをもう一度調べてみたんだけど、この日の午後はずっと、自分のホテルで仕事をすることになってんだよね」

『“新ホテル事業計画会議”?…【SOAR】に新しいホテルが出来るの!?』

「「……」」

『本当に?!』

「…新参者の俺が言うのは何だけど、そこじゃなくね?続けよ、ニノ」



スケジュールの文字に杏奈がいきなりテンションを上げ、一瞬、ツッコミを入れるのも忘れた。
こいつはこいつで気になることがあるんだろうけど、それは長年付き合ってる俺ですら、予測することが難しかったりする。
それでも、一番に俺の作戦と計画を理解するのは杏奈だし、面白くするのも杏奈だということは、いつもどおりだ。



『ごめん、話変えちゃったわね。…つまり、次の作戦決行日はこの日であって、彼がホテルにいるからこそ出来ることをやる。…そういう作戦になるってこと?』

「んふふふ、そーいうこと。でも、杏奈がこの前言った通り、もちろん正攻法ではいかない方がいいでしょ?その為に、潤くんが必要なんだ」

「俺?」

「さっき話題になったばっかだけど、料理の試食会をやって欲しいんだよね。この日はパーティ形式にして、他の客も呼ぶ。……場所は、ホテル【SOAR】」

『! 、【SOAR】?潤の店じゃなくて?』

「!」

「へえっ?」



3人が眉をひそめたり、瞳を見開いたり、驚いたように俺を見つめる。
確かに潤くんの店の試食会をするんだったら、本人の店でパーティを開くのが普通だ。十分なスペースもあるし、スタッフも多い。何より、場所を移動してまで料理を振る舞う意味が無い。


……“普通”だったら。



「潤くん言ったよね?改装するから、3週間後には店を一旦閉める、って。この日は、その店を閉める1週間前だし、常連客に詫びの意味も込めて料理を出してもおかしくはないでしょう?それに、店の方は改装でゴタゴタしてるから【SOAR】でやります、っていう、きちんとした理由も出来る」

「まあ、そーだね」

「で、そこで杏奈の作戦パターンの一つ、“まずは徹底的に無視”作戦。【SOAR】で試食会は開くけど、敢えてターゲットである翔ちゃんには通さないで、他の企業同様、通常窓口からイベントの申し込みをすんの」

「えっ?翔ちゃんに言わないの!?」

「そ。まー、自分とこのホテルだし、しかも今日、一緒に食事をした親友の店だし、遅かれ早かれ、パーティをやることは気付くでしょ。たぶん、その後潤くんの方に電話がかかってくるだろーけど、そこは無視作戦だから、テキトーに流してもらって…、」

「ははは!忙しいんだから別に来なくていいよ、とか言って?」

「んははは。そう、そんな感じ。…でも、さり気なく、杏奈もそのパーティに来ることは、翔ちゃんに伝える」

『…!…』



俺の頭の中で練られていた作戦をまとめ、一気に3人に話す。
そして、最後はわざと、杏奈だけに視線を合わせ、挑発するように言葉を締めくくった。



「どう?この作戦。杏奈が今日、きちんとやることやってきたんなら、良い作戦でしょ?どんなに無視されても、この日は翔ちゃんもホテルに居るから、様子は絶対に見に来る。何てったって友達の店だし。…それに、」

『……』

「…今夜、本当に杏奈が翔ちゃんを恋に落としてきたんだったら、…ね?」



探り合うように見つめ合う瞳は、深みのある茶色。それがオレンジのライトに照らされ、キラッと光る。
俺がニヤリと笑えば、応えるように、形の良い唇が弧を描いた。



『バカ言わないで。彼は私を好きになってる。ニノだって分かってるんでしょ?』



――― 分かってるよ?だから今、すっげーワクワクしてるんだもん、俺。






prev | next

<< | TOP
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -