Shine On You - 1/2


真っ白な天井に、鼻を刺激する薬品の匂い。そして、妙に静かなこの空間が、余計に私を落ち込ませた。
今日は、将来を決める大事な日、…だったはずなのに。



『どうして、こうなんだろ…。私って…』



私が望む人生、私の夢。その全てを今日に賭けていた。それらを実現させる為に逆算していくと、今日行われることは絶対に欠かせないものだった。
なのに、私は今、病院のベッドで横になり点滴を受けている。


信じられない。余りの惨めさに、涙が出てきそう。
でもそう思い、本当に視界が滲みそうになった瞬間。聞き慣れた声が、この静寂を破った。



「…まーた、落ち込んでんだ?」

『…!…』



病室のドアを見ると、立っていたのは友達の潤。
彼の皮肉が混じった言葉に、思わず涙も忘れ、体を起して大声を出す。



『っ、…るさいなぁ!当たり前じゃない!もう今年は無理って、決まったも同然なんだからっ!!』

「まーね。でも、前日に体調崩して入院なんて、管理出来てなかったお前が悪いし」

『っ、!!』

「はい。とりあえず、これ。一応お見舞い、……って、!?」



余りにも冷たすぎる潤の言葉に、感情に任せて枕を投げつける。でも、せっかく投げたそれも、軽々と受け止められてしまって。
置こうとしていた林檎が2、3個ほど、ベッドや床に転がった。



「おい!お前、何すんだよ?!信じらんねー…、…!…」



悔しすぎる正論に、さっき忘れたはずの涙が頬を伝って、お互いの間に気まずい沈黙が出来る。
女の武器とはよく言ったもので、その様子に、潤も素直じゃないなりにも、“…悪ぃ、言い過ぎた”と謝った。


でも、本当は私も分かっている。
体調管理も出来ないようでは、どんなに頑張ってきたとしても、決して評価されるものではない。結局は、突っ走って自分を見失っていた自分が全面的に悪いのだ。
だから私も素直に、“私こそ、ごめんね”と謝った。すると、潤も了解の印に笑い返し、落ちた林檎と枕を拾って、自分もベッドの上に座る。



『…それ、私へのお見舞い品じゃないわけ…?』

「ふっ…。1個ぐらい別にいーじゃん。元は俺のだし」

『ムカツク…』



林檎のひとつを服で拭き、そのままかじりつく潤に文句を言うと、いつもの調子が戻ってくるのが分かった。
証拠に、潤も“やっと、お前らしくなった”とニヤリと笑って言う。



さっきまでケンカしていたはずなのに、気が付くとこんな風になるのはいつものこと。
それがまた悔しくて仕方ないのだけど、潤を嫌いになることは出来ない。それはきっと……、



「でもさ?…確かに今年はもう無理だけど、いいじゃん、別に」

『…!…』

「夢を叶えるのに時間制限を設けるなんてこと、俺はしなくてもいいと思うんだけど」



――― そう。いつだって潤は、最後には優しい言葉で私を包みこんでくれるから。



厳しい現実と確かに向き合わせ、時にはそれだけで、心が折れそうになることはある。
でも、いつだって前を向いて立ち上がれるのは、潤から発せられるものの全てが、本当は優しさから出来ていると分かっているからだ。


だから、また涙が溢れ出すけど、別にこれは、哀しいんじゃないの。
悔しいんじゃ、ないの。



「そりゃ時には間違ったり、嫌になったりもするだろうけどさ。…絶対に上手く行くから。…俺が保障するから、ここで挫けたりするなよ」

『潤…』

「お前が思っている以上に、お前は弱くないはずだけど?」



雨が地面に滲みていくように潤の言葉が私の心に滲み渡って、どんどん楽になっていく。
よく考えたら、今の挑戦を始めてから、こんな風に感情を出して泣いたのは久しぶりだった。



「…だからさ、それまでは無理なんてしなくていいんだよ。ありのままに。…お前らしくいればいいんじゃないの?お前の夢も含めて、変わらないものは絶対にあるんだから。…俺はずっと応援してるよ?お前のこと」

『…っ、…』

「太陽は絶対にいつか輝く。…だから、迷ってないで前に進め」



優しい笑顔と共に、私の頭にポンと手を乗せて、力強い言葉で締める。私も、流した涙を掌で拭いて、“うん”と笑顔で返した。
林檎をかじる横顔は綺麗だけど、どこか頼もしい。それは、潤が本当の意味での強さを知っているから。
そして、それを私にきちんと教え、力を与えてくれるからだ。



『…なんで、“太陽”?普通、こういう場合の時って、“桜は咲く”とかじゃないの?』



病室の窓に目をやれば、外の中庭では桜の蕾が膨らみ始めていた。
それを見て、ほんの少し違和感のあった表現に、疑問を投じてみる。



「だって、桜は散っちゃうかも知れないじゃん?散ったら、それで終わりだし」

『何それ…。ひど…』

「ははっ!」



私の反応に、大声で笑う。でも、“けど太陽だったら、季節も関係なく、いつでも照らしてくれるからね”という言葉にすんなり納得してしまったのは、潤自身が太陽みたいだと思ったからだ。


“いつだって、私に立ち上がる勇気を与えてくれる人”
すると、そんな私の想いを読んだかのように、潤が言葉を続けた。



「…俺も変わらないから。お前の夢と一緒で」

『え?』



その言葉が含む意味を理解出来なくて首を傾げると、呆れたようにため息を吐く。
でも、すぐにニヤリと笑い、私の額を指で弾いた。
突然の不意打ちに、痛みに、思わずまた涙が出そうになる。



――― 痛みのせいにしておきたい。私も素直じゃないようで、悪いけど。



「俺は、ずっとお前の味方だってこと!」



それでも、ちゃんと約束は出来る。
目の前で笑ってくれる、この人のためにも、今日の涙を糧に出来る。



“私らしく、前に進む”


あなたが教えてくれたことを胸に刻んで。
いつかきっと、夢を叶えるよ。

あなたがもう一度、私を立ち上がらせてくれたから。





Shine On You.

( 太陽はいつだって輝く。君の元に。 )





End.


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