橋の作り方 - 1/2
『翔ってさ。時々、超KYだよね』
「…は?」
『普段、色んな人にニュースでインタビューしたり、バラエティでも進行役してるくせに』
「ちょ、ちょっと待て!なんなんだよ、いきなり?!」
テーブルには2つ分のコーヒーに、旨そうなケーキ。俺はテレビの番組表を確認していて、ソファでは俺の彼女が雑誌を読んでいる。 そんな、夕食後の穏やかなひと時。突然、俺を否定し始めたのは、その他でもない彼女だった。
『何て言うの?いざ、っていう時に空気読めないんだよね…。ほんと、がっかりする』
「だから、なんなんだって?!意味分かんねーよ!」
雑誌を読みながら、俺を見もせずに淡々と冷たく言う。 とりあえず、これまでの自分の言動を振り返ってみるけど、ただただ迷宮入りしていくだけの気もした。
いったい、俺がいつ、空気読めなかったんだよ?何?夕食の後片付けのことか?でも、“逆に面倒臭い”って言って断ったのはそっちじゃねーか! その代わりにコーヒーは不器用なりにも入れてやったし、誕生日だって忘れてない。つーか、ハロウィンですら、乗ってやったのに。俺…。
『…これっ!』
そんな風に悶々と悩んでいると、彼女がより鋭い目で俺を突き差した。 読んでいた雑誌を広げ見せてきたのは、俺たち嵐が、リレー形式で連載をしているコーナー欄。それを見て、益々、何がなんだか分からなくなってしまう。
「え…。これが何?俺、なんか変なこと、……言って、た?」
彼女の目がマジすぎて、つい声が小さくなっていってしまうけど、これは正当な質問なはずだ。なぜなら、その連載は俺たちのレギュラー番組とのタイアップでもある。 だから、番組内容のことしか訊かれないし、そもそも俺はおかしな発言をした覚えは無い。
なのに、その瞬間。 俺を目がけて、雑誌が宙を舞って飛んで来た。
『っ、何がマーマレードよ!何が、お気に入りのジャムよ!?智くんの回から、読み直せーっ!!』
「つーか、痛ぇよ!マジでっ!!」
――― 彼女の話は、こういうことだ。
よくよく話を聞き、雑誌をその智くんの回から読み直してみると、【ひみつの悩み相談】というミニコーナーがそもそもの始まり。 そこで、智くんが一度却下されたのにも関わらず、やっぱり気になる、ということでされた質問だ。
“橋はどうやってできるか知ってる?”
編集部からすれば、子供相談室みたいだというこの相談に答えたのが、次のニノ。 完全なる二宮節で上手く交わしたのかと思いきや、次のマツジュンにも同じ質問をしていて。そのマツジュンも、次の俺に同じ質問。
そして、ここまで読んで、俺もようやく分かった。 どうやら、“橋の作り方”について、全員の意見を聞く流れだったことに…。
「こ、これは…。確かに、空気読めてねーな…。俺…」
『翔のせいで、相葉くんに回んなかったじゃん!なのに、マーマレードがどうとか!この智くんからの疑問、どーするつもりなワケ?!』
「ど、どーって…。そんな言われても…」
確かに、空気読めてなかったのは認める。きっと編集部の人も、“おいおい、櫻井。最後まで繋げよーぜ?!”と思ったに違いない。 てか、下手したら彼女のように、これを読んでくれているファンでさえも。
でも!でも、ですよ?!たかだか空気読めなかっただけで、こんな冷たい言い方はないだろ、と。 しかも、俺、雑誌投げられてるし…。あれ、地味に超痛いんだからな?!
いやっ、っていうか……、
「何?橋の作り方、気になってたの?本気で」
『!?』
「まあ、気にならない、って言ったら嘘になるけど、そこまでじゃなくね?だって、だいたい…、っつ?!」
そこまで言って、また、ようやく気付く。 恐る恐る雑誌から顔を上げて彼女を見ると、さっきよりも鋭い瞳に、握り締められたクッション。
――― あ、やべぇ…。もしかして、またやっちゃった?俺。
『何、バカにしてんのよーっ!!?」
「うわっ…!ちょ、ゴメン!マジでゴメン!!マジで、ガチで、ゴメンって!!!」
嵐に所属で、唯一、大卒の櫻井翔。 キャスターもやってます、櫻井翔。 目標は、“空気をちゃんと読むこと”です。
今日から、もっと精進したいと思います。彼女のためにも、自分のためにも。 心から…。
橋の作り方
(まずは、彼女とのケンカには口答えしないこと。それが大事。)
End.
→ あとがき
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