お姫様と愉快な仲間たち - 1/3
side. N
初めまして。俺の名前はカズナリ。みんなカズと呼んでます。 本当はとある国の王子なんだけど、王宮生活が性に合わなくて、今はなぜか違う国の王宮で薬剤師やってまーす。あんまり、そこらへんは突っ込まないでくれると嬉しいな。 まあ、とりあえず、その話は一旦置いておくことにして、今のこの現状を説明させて?
「犬…?」
場所は使われなくなった、地下にある古い酒蔵。そこを自分の空間として利用していたんだけど、俺は誰も入れないように結界でも張っておけば良かった、と後悔している最中。 嫌な予感っていうのは、俺の場合だけど、大概当たる。今日だって、暇で水槽に魔法の香水を入れて城の中の様子をなんとなく見ていたら、水面に妙な3人が映った。 その時点でさっさと外に出ていれば、今、こんなことにはならなかったのに…。おかげで、面倒なことに巻き込まれたみたいだ。
『あ…、この子はマサキといって、王子のペットなの』
「俺ね!ショウちゃんとここにいるリーダーのおかげで、喋れるようになったんだ!ひゃひゃひゃ!凄いでしょ?!」
「ああ…しょっちゅう庭園内で遊んでるあの犬って、王子のペットで、こいつだったんだ?」
「人間にも変身出来るよ!する?今、して見せる!?」
どこでテンションが上がったのか分からないけど、王子のペットだというマサキが騒ぎ出す。それを、この国にやってきたばかりのアンナ姫が、自分の膝の上で騒ぐ犬を抱き上げ、大人しくするようにと目線を合わせる。 つい、犬と一緒にまじまじと彼女を見つめてしまうのは、俺なりに考えてしまうことがあるからなんだけど……、
『ダメよ、マサキ。1日に1回だけなんでしょう、変身は?そんな理由で容易く使うものじゃないわ』
「そっか〜…そうだよね!うん、分かったよ、アンナ姫!」
「……」
まさか国を出た後に、自分の“元”婚約者候補に会うとは思わなかったなぁ…。
いや。この場合、“元”でもないか。一度も顔を合わせないまま、俺は自分の国から飛び出しちゃったわけだし。 魔法が使えるから、今日みたいに水を利用して姫の顔は知っていたけど、そんな相手を、たとえ“元”であっても、婚約者候補とは言っちゃいけないな。 おかしなことにはなっているみたいだけど、一応、ここの王子と婚約したみたいだし。
「…てかさ、なんで俺がリーダーなの?いきなり変な呼び方しないでよ、マサキ」
そんなアンナ姫と犬の様子を見ていると、宮廷画家のサトシが言う。 王子の親友だということは風の噂で聞いてて知っていたけど、なるほど、こういうことに関しては余り頼りにならなそうだ。
「え?!だって、ショウちゃんの魔法を解け!作戦のリーダーでしょ?だから」
「なんだよ、それ〜!勝手に決めるなよなぁ〜」
『ふふ!』
「あ!キャプテンの方が良かった?ひゃひゃ」
「………」
前言撤回。この人だけじゃなくて、この3人自体が頼りにならなそうだ。 最初は死にそうな顔をして、ここに助けを求めに来たくせに、数分経ったら、勝手に和んでる。王子の魔法をときたいと言っている割に、まるで緊張感や危機感が無い。
ヤバイ。俺、もう既に逃げたいかも…。
「…で?俺にどうして欲しいんですか、お姫様?まだ、肝心なこと話してないでしょう」
『あ…、ええと。事の次第は話した通りで、それであなたに…、』
「?、 うん、何?」
『…ごめんなさい。私も、カズと呼んで良い?』
「…!…」
少し躊躇うように、そう伺うお姫様は、やっぱり“お姫様”なんだろう。おっとりしていて世間知らずかも知れないけど、思慮深い、なかなか可愛らしい人だと思った。
「んふふふ。どうぞ?姫のお好きなように」
でも、俺がそう言うと、なぜか姫よりも先に、じゃあ、俺もそう呼ぶね!と犬が返して来る。 ふと、こんなうるさい犬がいて、良く王子は業務を全う出来てたな、と思ったけど、同時に、ああ、だから庭園に放されてたのか…と気付いた。
『ふふ、ありがとう。それでね、カズ。あなたに王子の魔法をどうすれば解くことが出来るのか、相談しに来たの』
「うん。マサキの話だと、カズって誰も知らないような、凄い魔法使うみたいだから…。もしかしたら、何か知ってるんじゃないかな、と思って来たんだよね、俺たち」
「ねえ、助けてあげて、カズ!?このままだと俺、ずっとショウちゃんからご飯貰えないし、アンナ姫も他の国の王子と結婚しなくちゃいけなくなっちゃうの!」
「いや、お前の抱えてる問題は関係ないから。なんだよ、ご飯って」
この国の王子であるショウ王子にトラブルが起きていることは、もちろん知っている。 俺は薬剤師で、普段はこうやって地下に潜ってるから声を掛けられなかったけど、他の医師団のヤツらがお手上げ状態で話していたのを聞いていたから。 でもそれだけで、アンナ姫が婚約破棄の危機に迫られているとは思わなかった。しかも、その他の国の王子って、俺のことでしょ、絶対? 国に戻るつもりはないから結婚することは無いけど、こんな風に振り回されてるのは、さすがに可哀想だ。
だから、不安そうに俺を見つめる3人に1人ずつ笑顔を向けて、こう言ってやる。
「なるほどね…。まあ、面倒だけど仕方ない。助けてやりますか。んふふふ」
『本当に…!?』
「良かったぁ〜…」
「やったね、アンナ姫!」
笑顔でハイファイブを求められて逆にテンションが下がるけど、未来の王と王妃に恩を売っておくのは悪いことじゃない。魔法が解けた暁には、時間外業務として、報酬をきちんと頂かないとな。
「じゃあ、早速、作戦を練りますか」
こうして、俺はまんまと仲間になってしまう。でも、簡単に魔法が解けるか、というとそうでもない。 まずはショウ王子がどんな魔法にかかっているのか、他の医師団の診断ではなく、自分でするべきだ。
「!!」
『どうしたの、マサキ?』
そのことを姫と画家と犬に伝えていると、膝の上で丸くなっていたその犬が突然、耳としっぽをピンと立て瞳を見開く。それを見て、やっぱり犬だな、と思った。
「ねえ!ジュンの匂いがする!!」
嗅覚だけは、人より良いらしい。
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