お姫様と愉快な仲間たち - 2/3


side. N



「初めまして、アンナ姫。ご挨拶が遅れてしまったことをお許し下さい」

『初めまして、ジュン。会えて嬉しいわ。もう大丈夫だから顔を上げて?』



アンナ姫がそう声をかけると、片膝を着いたまま、言われたとおりに顔を上げる。犬が匂いに気付き、突然外を飛び出し連れて来たのはこの国の近衛兵であり、連隊長のジュン。
俺も今初めて会ったけど、例により、顔や話だけは知っていた。一番の剣の使い手で、王子だけじゃなく、国王からの信頼も厚いと聞いたことがある。
華やかなルックスは正に近衛兵だけど、なかなか真面目そうで、その評価も当然のことだと心の中で思った。



「ジュン、休暇は?まだ、戻って来る日じゃないと思ってたけど…」

「ショウくんが大変な目に遭ってるって聞いて。王子と姫を護るのは、俺の役目でもあるしね」

「そうなんだ!良かったね、アンナ姫!カズも仲間になって、ジュンも戻って来たし、もう絶対に大丈夫だよ!俺もいるし!ひゃひゃ」



予想通りに真面目な発言をジュンがすると、あ!今日からリーダーって呼んであげてね!と、画家を見て言う犬は、いつの間にかジュンの肩にぶら下がっている。
それぞれと顔見知りだったり、油断すると王子をショウくんと呼んでしまっていたりするのを見るに、やっぱり仲は良いみたいだ。



「さてと…。で、これでもう全員なの、仲間は?だったら、さっさと話進めまーす」



注目するよう手を叩くと、全員の視線が俺に集まる。さっきまでは緊張感の欠片も無かったけど、ジュンが来たことによって、空気が良い意味で張り詰めていくようだった。
そして、さっきした話をもう一度繰り返すと、姫が困った様に首をかしげて呟く。



『つまり、また王子にカズの診断を受けてもらえないか、説得しなくちゃいけないのね…』

「無理っぽいな〜、それ。最初の診断も、魔法をかけられて気を失ってる時にしたものなんでしょ?今のショウくんが素直に受けてくれるとは思わねぇーなぁ…」

「俺も戻ってきてスグに挨拶しに行ったけど、かなり警戒心が強くなってて、正直ビックリした。全然隙も見せないし」

「んふふふ。まあ、正攻法では行けないでしょうな」

「ええっ!?じゃあ、どうするの?診断しないと分からないんでしょ!?」



最初の一歩で、いきなりつまずいた感が出てきて、不安げな表情を見せる約2名と1匹。でも、やっぱりこの人はしっかりしているらしい。
俺が口角を上げて笑っていると、まさか…と静かに声を出した。



「もしかして、王子が眠ってる時に勝手にやるつもりじゃ…」

『え?』

「んふふ。大せーかい」



そう。まともに取り合ってもらえないなら、最初の診断の時のように、眠っている時にやればいいだけの話だ。というか、その方法しかない。
すると、今度はサトシ、…じゃなくてリーダー?リーダーが、でも、ショウくんのベッドルームになんて、限られた使用人や家族しか入れないよ?と言う。
確かにそのとおりで、王族であるが故にセキュリティが万全なのは、誰もが知っていることだ。


でも、その家族となる人が、ここにはいるはずでしょ?



『…え?!まさか、』

「そうか…。アンナ姫なら入れるな。ショウくんの婚約者だし…」

「アンナ姫がショウちゃんの診断するの!?」

『え、ちょっと待って、』

「まあ、俺としては、それが一番いいかな、と思うんですけど」

「アンナ姫!」

『む、無理だわ!私は医者じゃないし、診断なんて出来ないもの!』

「くっ、…んははは!」

『!?』

「…おい、カズ。あんま、意地悪するなって。ほどほどにしないと、ショウくんを助けるためとはいえ失礼に当たるぞ」



あららら。なんだ、やっぱりバレてたか。
笑いに耐えきれなくなった俺に、ジュンがそう苦言を呈すると、アンナ姫たちの頭の上にクエスチョン・マークが浮かぶのが見えた。だから、またからかうように、笑って言ってやる。



「え?何、どうゆうこと!?」

「んふふふ。まあ、ぶっちゃけちゃうと、俺なりに検討はついてるんだよね。かけられた魔法は」

『え!?』

「やっぱりな…。診断を人に任せるっていうことは、ある意味、ただの確認作業に近いんだろ?その診断は」

「うん。ただ、もちろん確定ではないからね。その魔法を確定するためにも、診断が必要なのは嘘じゃないよ?んふふ」

「ったく…」



俺が予想している魔法であれば、ショウ王子の胸には薔薇のような痣が出来ているはず。でも、これがまたややこしくて、魔法を解くリミットが設けられている場合は青の模様、制限がない場合は赤の模様になっている。
だから、その色を確認するためにも、誰かには行ってもらわなくちゃいけないんだけど、アンナ姫が無理なのは最初から分かっていた。
だって、ベッドルームと胸の2つのワードが出てきただけで、頬がピンクに染まるぐらい純粋なんだもんなー。


そんな俺たちのやり取りを聞いて、姫が安心したように胸を撫で下ろす。でも、スグに恥ずかしそうに、もう!からかわないで下さい!と声を上げた。
それを見て、アンナ姫可愛い〜!と犬が笑うけど、和んでる場合じゃない。ここからが話の本題だ。



「…?、 じゃあ、結局誰が診断するの?アンナ姫以外にベッドルームに入れる人なんて…」

「いや、いるでしょ?ベッドルームにも難なく入れて、万が一、ショウ王子が起きた場合でもめげないで飛び付くことが出来るヤツが」

「え、誰!?そんな人いたっけ?!」

「「『………』」」

「まあ、正確には人じゃなくて犬なんだけどさ。んふふふ」

「え?」

『…マサキ?たぶんでもなく、カズが言っているのは絶対にあなたのことだと思うわ…』

「ええっ!俺!?」

「いってらっしゃーい」



というわけで、王子の診断役は、ペットである犬に決まりだ。また無駄にテンション上がってるようだし、ちょうど良いと思う。
でも、喋れるからといって、さすがに犬だけに任せるのは、俺だけじゃなく全員が不安らしい。それを見兼ねてか、ジュンが仕方ねぇーな…と自分自身に向けて指をパチンと鳴らす。

なるほどね。その手があったか。なかなかやるじゃん。



『!!』

「ね、ネコ…?」

「ええ!?ジュンって、ネコだったの!?」

「ちげーよ!お前と一緒にすんな!」



ジュンの姿が消えて、代わりに現れたのは1匹のネコ。リーダーたちが驚いているのを見るに、余り変身を披露したことはなさそうだけど、魔法のセンスが良い。現に、変身時間は3時間で、回数の制限も無いと言う。
まあ当たり前だけど、これが犬と人間との差だ。



「俺もこの姿で、マサキに付いていくから。そうすれば、ショウくんが起きた場合でも魔法を使ってなんとか対応出来るし」

「うん。そうしてもらえるとありがたいね。てか、これだと犬の方はいらない感じだけど」

「なんで、そういうこと言うのー!ねえ、アンナ姫、俺じゃなくちゃダメだよね!?」

『ふふ。もちろんよ、マサキ。診断を宜しくね?』

「ひゃひゃひゃ!任せて任せて!」



そう言って、犬が姫に抱きつくけど、本当に大丈夫だろうか?いざとなったら人間に変身してショウちゃんを押さえるよ!、とか言ってるのを聞いてると、すげー不安なんだけど。
頼むから、俺の未来の報酬を減らすような真似はしないでもらいたいんだよなぁ…、マジで。


そんなことを考えていると、しっかり者のジュンが早速、外に出るよう犬に声をかける。動物が2匹になって、なんだかより変な空間になったけど、仕方ない。



「え?もう行くの、ジュン?」

「バカ。行くのは夜に決まってんだろ。今はそのルートを確認するんだよ。見つからないように行かなくちゃいけねーんだから」

「「『………』」」

「ああ、そっか!オッケー、オッケー!ひゃひゃ」

「…それでは、姫。しばらくの間、失礼致します。リーダー、カズ。俺がいない間、姫のこと宜しく。ほら行くぞ、マサキ!」

「あっ?!待ってよ、ジュン!アンナ姫、行ってきまーす!!」



この地下の古い酒蔵から、足早に駆けていくネコと犬。地上に上がる階段からは、しばらくの間、待ってよー!という声が木霊していた。


王子の魔法を解くための、最初の一歩。動物に任せるという、やけに可愛らしい一歩だけど、やらないよりはマシだ。
後ろ姿を見送りながら、リーダーがポツリと小さく呟いたけど、それは今のところ大目に見るしかない。



「犬が、ネコに従ってる…」



仕方ないよ。

だって、本当は人間と犬だから。





End.


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