かけられた魔法 - 2/3


side. O



そんな姫の話を聞いて、マサキがより一層慌て始める。マサキや俺はもちろん、ショウくんと姫の結婚は誰もが望んでいることだからだ。



「ねえ!ってことは、もし今、その王子が見つかったら、アンナ姫はその人と結婚することになっちゃうかもしれないってこと!?」

『そう、ね。そうせざるを得ないと思うわ…』

「ええ〜!!?」

「じゃあ、そんなことが起きる前に、なんとかしてショウくんを元に戻さないとなぁ…」



そうは言ってみるけど、俺たち3人じゃ、ろくなアイディアは浮かばない。だって姫は来たばかりだし、俺はただの宮廷画家だし、マサキは犬だし。
そもそも、こんな事件はこの国始まって以来、初めてのことだ。せめて俺ら以外にも、頼れるしっかりした人がいてくれれば良いんだけど…。


すると、俺と同じようなことを考えていたのか、ジュンも早く帰ってくればいいのになぁ〜、とマサキが言う。



「そっか〜。そうだな。…ジュンがいれば、良い解決策を考えてくれるよね。きっと」

『ジュン?それは誰?』

「ふふふ。ジュンはこの国の近衛兵で連隊長なの。一番の剣の使い手で魔法も使えるから、ショウちゃんもすっごく信頼してるんだ!」

「ただ、今は休暇を取っていていないんだよね、ジュン。…ジュンがいれば、そもそも、こんなことにはならなかったとは思うんだけど…」



そう。ジュンがいれば、あの魔女を捕まえることも出来たはずだし、魔法を解く方法もすぐに分かったかもしれない。
けど、あの日、ずっと働き詰めだったこともあり、ショウくんが休暇を与えたのだ。何も婚約パーティが開かれるタイミングで、そんなことしてくれなくてもいいのに…。


だから、ジュンが留守の今、ジュン以上に頼れる人はいない。全く当てが無いまま、どんどん時間だけが過ぎていくのを見ているだけ。
そんな時、全員で腕組をして考えていると、姫が他に誰でもいいから頼れる人はいないのかしら…?と呟く。同時にマサキがピンとしっぽを立て、思い出したように声を上げた。



「あっ!そういえば、今日、給仕の人が言ってたんだけど、」

「給仕の人って…。もしかして、またご飯とか貰ってたの?何でもかんでも貰う癖、直した方がいいんじゃない、マサキ…?ショウくんも、前に注意してたじゃん」

「いーの!だって今のショウちゃんになってから、ご飯もまともに貰えないんだもん」

『マークの入った首輪を着けているのに…。本当にペットと思われてないのね…』

「もうっ!いいから、俺の話を聞いてってば!!」



マサキの話は、こういうことだった。


1年前、医師団に若き薬剤師が新しく1人加わり、なかなか評判が良いらしい。
頭の回転はもちろん速いし、誰も考えつかなかったような技術を用いる。そのおかげで大幅にチーム自体のレベルもアップしたとかで、他の医師団のメンバーも一目置いているとのことだ。
しかもそれだけじゃなく、時々、見たこともない魔法を使っているという。
誰かが病気になったりしない限り、表立って出て来ることはない医師団だけに、そんな情報までは把握してなかった。凄いヤツがいるんだな、この城には…。



「でね!本人は内緒にしててくれ、って言ってるみたいなんだけどさ、なんか凄そうじゃない!?」

「確かに…。元々、医師団は知識だけじゃなく、レベルの高い魔法を使える人しか入れないのに…。もしかしたら、ショウくんを元に戻す方法を知っているかもしれませんよ!アンナ姫!」

『そうね…。でも、協力してくれるかしら?』

「大丈夫だって!婚約パーティは途中でお開きになっちゃったけど、仮にも未来の王妃様なんだし!ひゃひゃ。アンナ姫の頼みを断るはずないよ!!」



ようやく見えた、一筋の希望の光。もしかしたら、ショウくんの魔法を解くことが出来るかもしれない。
思わず、3人で顔を見合わせ笑顔になる。



「マサキ、…っ、その!なんだっけ、薬剤師の人?名前は?普段はどこにいるの?」

「えっとね、確かぁ〜!」

『今夜はもう遅いから無理だけど、明日にでもすぐに尋ねなくちゃ』

「あれ?なんて言ってたっけな?ちょっと、待って!」

「なんだよ、もう忘れたのかよ〜!マサキ!」

『大丈夫、マサキ?よく思い出して』

「えーっと〜…!…あっ、思い出した!!」

「! 、本当?やった!」

「確かカズ、」

「あのさぁ!?」

「「『!!?』」」



目を閉じて、必死に思い出そうとするマサキ。ようやく、その名前を記憶から探し当てたらしく、笑顔を弾けさせて答えようとした瞬間、被せるように、怒鳴り声が部屋に響いた。
3人共、恐る恐る声のする方へ目をやると、片側のドアに寄りかかりながら、その人は俺たちを見ている。



――― 漆黒の髪に、冷たい瞳。ああ、早く元に戻さなくちゃいけないなぁ…。



『お、王子…!』

「…もうちょっと静かに出来ないワケ?読書室の方にまで、声響いてるんだけど」

「あ、ショ、ショウちゃん!アンナ姫は別に悪くなくて、」

「つーか、何?まだ、犬いたの?」

「!?」

『お、王子!マサキは私が責任を持って世話をしますから…』

「アンナ姫ぇ〜!!」



ショウくんにそう言うと、マサキが喜び、姫に飛びつく。でも、ショウくんは心底どうだっていいみたいで、勝手にすれば?と、またも冷たい言葉を投げかけた。
そんな様子からも分かる、様変わりしたこの国の王子で、俺たちの大事な人。俺たちの知っているショウくんとは、どこまでも違う。
それでも、絶対に前のショウくんの部分も残っているはずだと思ってしまうのは、俺の都合の良い考えなのかな?

だってさ……、



「…ショウくん、まだ起きてたんだね。読書室って…、勉強?」

「『!!』」

「当たり前だろ。この国をもっと良くするために、色々と考えなくちゃいけないことがあるんだよ」

「「『………』」」

「だから、騒がないでくれない?集中出来ないんだけど」



人って、どんな風になっても、根本的な部分は変えられないのものなのかな?


どんなに記憶を失っても、どんなに冷たい性格になっても。どうやら我が国の王子は、うっかり感心してしまうほど、真面目一筋らしい。
おかげで、筋の通った文句に返せる言葉はこれだけで……。



「「『 も、申し訳ないです…』」」



その場を去っていく、なびく黒髪を見ながら、思わず頭を下げた。
ほんと、さすがだよ、ショウくん……。




End.


→ あとがき





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