わんことにゃんこの大冒険 - 2/3


side. A



「悪ぃ…。俺がついていながら…」

「や、ジュンは悪くないでしょ。悪いのは全部、そこにいる暴走した犬。……だよね?」



ジュンが空になったワインケースに座りながら、頭を抱えて謝罪をする。なのに、痛いぐらい突き刺さる薬剤師のカズの視線は確実に俺に向けられていてた。
アンナ姫の膝の上に収まっている俺も、ようやく大変なことをしたんだと気付く。

どうしよう…!俺、もしかして本当に処分されちゃう!?



「…マサキ。ショウくんが扉を開けておいてくれたのが嬉しいのは分かるけどさ…。ダメだよ、作戦を忘れちゃ…」

「! 、だ、だって、リーダー!」

「だって、じゃないの、犬。はぁ…。お前のせいで結局診断が出来ずじまいでしょーが。どうすんのよ?」



仲間になったばかりのカズは、未だに俺のことを名前じゃなく、犬って呼ぶ。今夜のミッションが上手く行ったら、いい加減に名前で呼ぶよう注意しようと思ってたのに、それどころじゃなくなっちゃった。
カズの隠れ家である地下の古い酒蔵も、夜のせいか空気が冷たい気がするし、何よりアンナ姫が残念そうにずっと俯いてるのが心苦しくて仕方ない。



「ご、ごめんね?アンナ姫…。俺、なんであんなことしちゃったんだろう…」

『マサキ…』



そんな風にずっと下を向いていると、ジュンが、でもそういえば…と口を開く。目は閉じられていて、必死で今夜の記憶を辿っているようだった。
そして、そのジュンの言葉に、俺もようやく挽回出来そうな予感がする。



「…マサキがショウくんのガウンを引っ張ってたから、ちょっと見えた気がするんだよな…、痣」

「!!」

「本当に、ジュン…?」

「うん。でも、青でも赤でもなくて…」

「………」

『? 、どういうこと…?』

「なんていうか…、」



カズの話だと、痣の色は青か赤のはずだった。それを見分けることで、タイムリミットがある魔法なのか、そうじゃないのかが分かる、って。
ジュンにつられ、俺も思い出してみるけど、確かにジュンが迷うのも当然だ。一緒に引っ張ってたから見えたけど、あれは青や赤じゃなくて……、



「…黒っ!!」

「は?」

「黒だったよ、痣の色!俺も見たもんっ!」

『マサキ?それは…、確かなの?』

「うん!絶対にそうだよ!ね?ジュンもそうでしょ?!」



俺が同意を求めると、少し考え、カズに向かってしっかりと頷く。ようやく今夜の作戦に意味があったと分かって、俺もアンナ姫もリーダーも、ほっと安心した瞬間。
なのにカズだけは腕を組み、顎に手を当てたまま、うーん…と唸り続けている。その様子を見て、ほっとしたのも束の間。また3人で、不安そうに顔を見合わせた。



「黒、……か」

「え…?やっぱり、なんかマズいの?」

「やー。なんつーか…。もしかしたら、だけど…」

『な、なんですか?!』

「カズ!?」

「………」



同じ場所を何度も歩き回りながら、カズが考え込む。
そして、足を止めたと思ったら、座っているアンナ姫と目線を合わせ、にっこり笑ってこう言い放った。



「…俺が考えている以上に、ややこしい魔法をかけられちゃったのかもね?あなたの婚約者」

『え…』



――― カズの話は、こういうことだった。



痣の色が青でもなく、赤でもない。本当に黒だとするなら、恐らく元々考えていた魔法に、さらにオリジナルのアレンジがされている可能性がある。
それを分析するのは、しばらくショウちゃんの様子を見ていくしかないらしい。



『そんな…』

「さすがにオリジナルの魔法となると、俺もしっかり調べなくちゃいけないからね。ま、この手の魔法はリミットは関係ないはずだから、時間は気にしなくていいはずだけど」

「そうなの…?」

「うん。それに俺の予想だけど、一時でも魔法が解ける瞬間があるはずなんだ。その場合だと」

「へえっ?どういうこと?」



ワケが分からず、ずっとクエスチョンマークを飛ばしてると、ジュンがつまり満月の時とか、そういう特別な瞬間な時のことだろ?とカズに訊く。
その答えにカズはニヤリと笑い、アンナ姫に向かって、月に1回だけでも元の王子と会えるのは嬉しいでしょう?と言ってくれる。俺もアンナ姫を見上げると、瞳を潤ませながら、コクコクと首を縦に振っていた。



「ねえ、それってつまり、まだ魔法は解けないけど、元のショウちゃんに戻る時もある!ってことだよね!?」

「だから、そう言ってるでしょーが。んふふふ」

「良かった〜…。それなら、少しはアンナ姫も救われるよね。んふ」

『ありがとうございます…!』

「良かったね、アンナ姫!ひゃひゃ」



色々あったし、未だにショウちゃんを元に戻す方法は見つからないけど、少しでも前のショウちゃんに会える時がくるんだ、って思うと俺も嬉しくて仕方ない。
きっと、今は時間がもっと欲しいだけなんだよね。俺は魔法のことは良く分からないけど、きっと、そういうことなんだと思う。

すると、ジュンが立ち上がり、だったらさ…とカズに声をかける。



「その間、逃げたその魔女?そいつも探してた方が良いよね?もし捕まえられれば、スグにでも魔法は解けるワケだし」

「うん、そうだね。そこらへんはジュンに任せるよ。専門でしょ?」

「!!」

「まーね?少しでもショウくんとアンナ姫のために何かしていたいし」

『ジュン…』

「ま、捕まえる前に、俺がさっさと魔法を解く方法を見つけてやりますけど。んふふふ」



自信たっぷりに、ジュンとカズが笑う。アンナ姫はとうとう涙を流し、リーダーは隣で、本当に良かったね、と綺麗なその髪を撫でた。
それを見て、俺も嬉しくなってしまうのは当然のこと。2人の為に、俺にも何か出来ることはあるはずだ。



「ね、ねえっ!?」

「「「『!!』」」」



だから、自分なりに考えた出来ることを、思い切ってみんなに言ってみる。
でも、返ってきた言葉は結局いつも通りで、それを聴いて俺は、少しでも早くショウちゃんの魔法が解ければいいのに!と心から思った。


ねえ、ショウちゃん。やっぱり、ジュンの俺に対する最近の扱いって酷すぎない!?俺がショウちゃんのペットだってこと、絶対に忘れてるよ!
魔法が解けたら、ショウちゃんからしっかり注意してよね!?



「俺もジュンについていって、悪い魔女掴まえるために一緒に頑張りたいんだけど!」

「っ、…ぜってー、来んな!」

「てか、犬は処分されるんじゃなかったの?んふふふ」

『え!?』



ついでに、俺を犬って呼ぶ、カズのことも!!





End.


→ あとがき





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