優しさの表現方法 - 2/3
定例となっていた、放課後HRでの体育祭の話し合い。 それも無事に終わり、全員が帰宅や部活へと向かう中、私もいつも通りにカバンを肩に掛ける。 そんな中、彼ら5人も相変わらず元気で華やかで、思わず笑みが零れた。
「ぃよーっし!じゃあ、俺はバスケ部行ってくるからね!みんなバイバイ、また明日!」
「はははは。頑張れ、相葉っ!」
「んふ。じゃあ、俺も帰るね。夕城さんも、バイバイ」
『! 、うん。大野くんも、また明日』
そう言って、前に座る相葉くん、櫻井くん、大野くんに挨拶をして、教室から出ていくのを見送る。 川乃も、同じように“またね!”と言って部活へ行ってしまったせいか、一気に教室が静かになったような気がした。 こういう時、相葉くんたちのクラスの中での存在感というものを、改めて実感してしまう。 そして、ついつい、その余韻に浸りそうになるけど、隣から松本くんたちの声が聴こえて、ハッとした。
――― このチャンスを逃すと、またお礼を言うタイミングを逃してしまう。
「ニノ、今日バイトは?無いんだったら、家に行っていい?教えて欲しいゲームあるんだよね」
「いーよ?その代わり、ジュース奢ってね、潤くん。んふふふ」
『! 、…っ、二宮くん!』
既に、教室ドアから出ようとしている2人を、慌てて大きな声を出して引き止める。 松本くんは私の様子に不思議そうな顔をしたけど、二宮くんは私が何を言うのか分かっているかのように、唇の両端を上げて見せた。
あの後、二宮くんは本当に担任の先生のところまで付き合ってくれて、何度も泣きそうになる私を見兼ね、一緒に事情を説明してくれた。 その甲斐あって、先生は朝のSHRで私の名前は出さずに、今起きていることを話し、注意してくれたのだ。 それから今の放課後まで、ちょいちょい取り繕うかのように、一部の女の子が何てことないことを私に話しかけたりしてきたのだけど、彼女たちがいなくなると、二宮くんは呟くかのように、ゲームをしながら、“ほんと女子って分かり易いよなー”、と言ったのが後ろの席から聴こえた。
たぶん、つまり、彼女たちなんだろうな、とは私も思う。 でも、言いたいのはそんなことじゃなくて……、
『…今日は、本当にありがとう。…ずっと泣いてばっかりで、ちゃんとお礼言えてなかったな、と思って…』
「んふふふ。…いーよ、別に。当然のことしたまでだしね。また何かあったら、ちゃんと話し聴くからさ」
『…ありがとう』
「どーいたしまして。また泣かないでね?潤くんに見られたら、さすがに言い訳出来ないからさ。んふふ」
『ふふっ…』
私たち2人に気を遣って、少し離れたところでケータイをいじりながら待つ松本くんを見て、からかうように笑う。 思わず釣られて私も笑ってしまうけど、彼が纏う、その独特な軽い空気は、今までとは違ったように見えた。
確かに、二宮くんはいつも飄々としてるし、時々信じられないぐらいキツめのツッコミをしたりする。 人懐っこそうに見えるけど、本音が見えない言動が多々あって、なのに、誰にも責められなかったりする。 その雰囲気が逆に私は怖くて、故に今まで遠ざけていたけど、今日、彼の優しさに触れてようやく分かったような気がしていた。
「じゃあ、いい加減、潤くん待たせんのも悪いから、帰るね。夕城も、気を付けて帰んなさいよ」
『ふふ。…うん。じゃあ、また明日』
「バイバーイ」
きっと、彼は凄く冷静で、敢えて一歩後ろに下がって周りを見ている人なのだ。 だから、ほとんど関わりの無かった私のような子にも、すぐに手を差し伸べて、且つ気持ちを理解してくれる。 その対応はまるで大人さながらだけど、彼ならではの空気の軽さが、相手に重荷を感じさせずにいさせてくれるんだろう、と思った。
だから、私もこうやって笑顔でいられるんだ。
「…夕城ー?」
『! 、何?』
「明日は、ちゃんと笑って登校しろよ?」
『…!…』
「んふふふ。…バイバイ」
少し遠くで、再び振り返りながらそう言われ、また思わず笑ってしまう。 最初からずっとそうだったように、呼び捨ての名字で呼ばれていたのに気付いたのは、家に帰ってからだった。
計算されたような距離感と軽さ。
たぶん、これが彼なりの優しさの表現なんだろう。
17 コンパス
(器用な彼だからこその、見事なまでの立ち回り)
End.
→ あとがき
|