30センチの距離 - 1/4


新しい学年、新しいクラスになって約1カ月。
この期間、色々なことがあって、その度に新しい発見をしてきたけど、今の私にそんな余裕は無かった。これから先、その余裕が生まれるのかも怪しい。



『……』

「…杏奈、大丈夫?換わろうか?」



親友の川乃がそんな私を見兼ねて声をかける。私たち2人の視線は同じ場所で止まっていて、そこへ向かう途中だった。
クラスメイトは楽しそうに声を上げており、ガチャガチャと机や椅子を動かす音がうるさい。
彼女の言う通り、今なら誰にも気付かれずに工作出来るだろうと思うけど、先生にバレたら、後々もっと気まずいことになる。



『ううん。…大丈夫』

「そ?」



心配する親友を安心させるように、笑ってその申し出を断る。
川乃は私が笑ったことにほっとしたのか、自分の机と椅子を取りに戻り、私は覚悟を決めて、目的地へと足を進めていく。
そこには既に彼らの内3人が居て、やけにキラキラした空気が、廊下側の席だというのになんだか眩しかった。



「あ…。夕城さん、ここなの?」

『うん、よろしくね。大野くんの隣は川乃だから』

「…川乃?」

『?』

「あ…。進藤さんのことか…。んふ。そうなんだ?」



そう言うと、机に乗せていた椅子を下ろしながら、やって来た川乃に何事も無かったように挨拶をする。
去年1年間同じクラスだったはずなのに、顔と名字だけという、中途半端な覚え方をしている大野くんにクスクス笑っていると、前の方に居る櫻井くんと相葉くんと目が合い、彼らもにっこり笑って返す。
自分の前の席に川乃が居ることと、このところ機会があれば話すようになった彼ら3人が居ることがせめてもの救いだけど、それでもやっぱり不安だ。



新しい学年、新しいクラス、新しい友達。
席替えが必須なのは分かっていたけど、こんな席順、何かの間違いだとしか思えない。



「潤くーん。こっちー」

『!!』



突然背後から聴こえてきた高音の声に、背中がビクっと驚いた。
肩越しに後ろを見ると、そこにはいつの間にか二宮くんが来ていて、さっきの大野くんと同じように、椅子を机から下ろしている途中。
そして、その声を指針にするように、“ごめん通してー?”とこちらへ向かってくるのが、今日から私の隣の席となる人で、松本くんだ。
気のせいか、さっきよりもキラキラした空気に、目が眩みそうだった。



「…よろしく」

『よろしく…』



彼から先に声をかけてきたことと、真っ直ぐの視線に圧倒されて、顔が強張る。
事の発端は、こういうことだった。



2日前に決まった、席替えをするというクラス内イベント。でも、まだ1カ月しか経っていないこともあり、担任の先生から1つのアイディアが出た。
それは、渡す紙に絶対一緒の班、近くになりたい人、もしくはその逆でも名前を書いてくれれば、先生がそれを考慮して席を決めてくれるという、まだクラス全員が馴染めていないからこそ出てきた方法だった。
この方法はクラスメイトにはもちろん大ウケで、私も少し離れた場所に座る川乃と目を合わせ、回ってきた小さな紙に彼女の名前だけを書いた。


それが、この結果だ。



「ひゃひゃ。良かったぁ〜、翔ちゃんの前の席になれて!」

「ははは!お前気持ち悪いから!」

「んふ…。俺も翔くんの後ろだけど、なれて良かった」

「えっ!」

「これで、いつ授業中当てられても安心」

「……」

「ね、相葉ちゃん」

「ねー、リーダー!」

「…っ、お前らふざけんなよなぁ〜!」



全員が決まった席に着き、先生がそれを確認していると、前の3人がそんなやり取りをするのが聴こえてくる。
どうやら、大野くんと相葉くんは揃って櫻井くんの名前を書いたらしく、理由はさておき、相変わらず空気は和やかだ。
因みに席順は廊下側で、前から2番目の席に相葉くん、櫻井くん、大野くん、松本くん、二宮くんの順だった。
すると、3人の会話を受けて、二宮くんが前の席に座る松本くんに声をかける。



「潤くんは?誰かの名前書いたの?」

「俺?俺は別に…。目悪いけど、コンタクトしてるから後ろの方の席でも構わなかったし…。ニノ、書いたの?」

「うん。ゲームする為に、一番後ろの席っていうのは第一条件だよね。あとは、相葉さんから出来るだけ遠くにってのと、潤くんの名前書いた。相葉さんを確実に遠ざける為に」

「おいっ!そこ!」

「ははは。全部希望通りじゃん」

「いや…。俺としては、もっと遠くが良かったのよ、相葉さんは。端と端、角と角っていうか、線で繋がるラインね?この席で言うなら、窓側の一番前の席に居て欲しかったのよ、相葉さん」



二宮くんの本気なのか冗談なのか分からないトーンの喋りに、他の4人が笑い声を上げる。
言いたい放題言われている相葉くん本人ですら笑っているのを見ると、彼らは本当に仲が良いんだろう。



「ニノちゃんなー!俺のこと好きだから、わざとそんなこと言うんでしょ?ね、そうだよね?」

「んふふふ。こっち向いてないで、前見たらどうです?先生がめっちゃ睨んでますけど」



――― 席替え初日は、こんな風に、あっと言う間に過ぎて行ってしまった。






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