運命の出会い - 6/9
side. S
リビングに鎮座する真っ白の3シーターのソファ。3シーターと言いつつ横幅3メートルもある最高に座り心地が良いそこに、彼女を寝かせる。 持っていた鞄を1シーターの方のソファに適当に置き、ベッドルームからブランケット持ってきて、ソファに彼女に、重ねるように被せてあげた。 熱を持った額には冷たいタオルで冷やしてやったし、これでこの女の子が死ぬ可能性は無くなったと思いたい。
そこで、ようやく一息吐く。
「あとは…、何すればいいんだ?目が覚めた時のためになんか食わせてやった方がいいのかな、やっぱ…。でも、米も買ってないんだよなぁ〜、俺…」
ぶつぶつ言いながら今度はキッチンに向かい、冷蔵庫やら棚やらを漁り始める。 普段、家事なんてほとんどしない俺は、独り暮らしをしていても何か出来るわけじゃない。やって洗濯、時々掃除。料理はやった記憶さえ、辿ってもいっても見付からない。 仕事ばかりに精を出していると、こんな風に米があるのかすら把握出来ていないという、残念なことになるのだ。
「うわっ!?誰だよ、こんなとこに置いたの…、って俺だよ!あ゛ーっ、もう…!」
『…ん…。うぅ…、ん…』
「!!」
キッチン周辺をガチャガチャいじっていると、乱雑に重ねられていた鍋やフライパンが崩れてきて、思わず大声を出した。 一人ノリツッコミするほど、たぶん俺のテンションはおかしいんだ。でも、その騒々しさにソファで眠っている彼女が小さく反応して、ドキっとする。
「…眠って…る、よな?」
すぐに規則的な息遣いが聞こえてホッとするけど、とにかく、これが俺の料理をしない理由の一つだと、改めて実感した。しかも、それを分かっていたかのように、レトルトのお粥が見つかる。 いつ、なんで買ったのかは全く覚えていないけど、幸い賞味期限は過ぎていない。とりあえず、すぐに出せるように用意だけはしておく。 その時、なぜかそのお粥が美味しくなかったことだけは思い出した。でも、彼女には文句を言える立場じゃないことを理解してもらい、目を瞑ってもらおう。
「あー…。なんか、もうマジで疲れてきた…」
他に何をすればいいか分からないので、スーツのジャケットを脱いで、彼女の眠るソファの側、床の上に座る。 きちんと着替えをする気になれないのは、きっと、この疲労感のせい。それなのに寛ぐという感覚をちゃんと思い出せないのは、この家でほとんど時間を過ごしていないからだ。 彼女が横になっているこのソファも、キッチンの前に置かれるダイニングテーブルも。この家にある物全部、結構な値段がする物なのに、使いきれてない。 せっかくの良い部屋も、良い家具も、ただなんとなく置かれるだけで、寝泊まりしてるだけのホテルと何も変わらない。仕事も一段落したんだから、これからはプライベートも楽しめるようにしたいと、密かに思った。
「あれも、最近全然いじってねーなぁ…」
そう呟いて見つめる視線の先には、この家が自分の家だと感じられる、唯一のコーナー。 おびただしい量のCDに、大型コンポに、スピーカー。
――― それに、DJ機材だ。
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